第二幕、御三家の嘲笑
「……あの、松隆くんって、あんまり家のこと言われるの好きじゃないんですか?」

「そうね。だからあんまり聞いたことないはずよ。遼ちゃんはザ・家族って感じの家族だから兄弟の話もよくするでしょ。駿ちゃんも尊敬する人を迷わず両親って書くくらいらしいし、ベクトルは違えどそれぞれ〝理想の家族〟ってやつよ」


 全くもってその通りだ。だから私や──蝶乃さんには、桐椰くんの優しさが分からない。


「でも総ちゃんは違うでしょ。別に仲が悪いわけじゃないけど、なんたって〝松隆家〟だもの。今時二世なんて当然じゃないけど、だからこそ所詮二世じゃなくて流石二世にならなきゃいけないんだから」


 当然に父親を継ぐけれど、それは周囲から見れば親の七光り。息子は何の実力もない無能だと言われないために、流石あの父親の息子だと言われるように努力を積まなければならない。それは、誰もが歩む道ではない。


「生まれたときから〝松隆〟の名前があるのはやっぱり重いわよぉ。アタシみたいに男と女の狭間で生きれないし、遼ちゃんみたいに感情を表に出せないし。次男っていうのもあって中学生のときまで結構好き勝手してたけど、所作っていうの? 大事なとこではちゃーんと年齢以上の大人だったわよ」

「……そりゃ腹黒くもなりますね」

「そうね。ま、貴女の計算高さとお似合いよ」


 ……よしりんさんは、何か感づいているのだろうか。松隆くんの話をしていたはずなのに、急に私に矛先が向けられた気がして姿勢を正してしまった。よしりんさんが口を開く。


「総ちゃんと、何かあったの」

「……いえ、」

「付き合ってるの?」

「……断りました」


 よしりんさんは無言だった。聞かれなければ続ける言葉などない。よしりんさんはハンドルを左手で握り、アームレストに肘をつき……、はぁー、と大きな溜息を吐いた。


「でしょーね」

「……なんで分かるんですか」

「アタシが分かったのは総ちゃんが貴女に告白して、貴女が付き合うのを断ったって事実だけよ。断った理由までは分からないわ」

「分かったら怖いですよ」

「付き合えば良かったのに」

「ふぇ?」


 予想外の言葉に変な声が出た。「付き合えば良かったじゃないの、って言ってるの」とよしりんさんは繰り返した。


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