第二幕、御三家の嘲笑
 リビングから海を眺める。白い砂浜と、青い海。青も、ただの青じゃない。エメラルドグリーンか、コバルトブルーか、空色か、翡翠(ひすい)色か……、自分の色相感覚が貧相であることを突きつけられてしまう気がするほど、言葉では言い表せない澄みきった美しい色。クスクスとよしりんさんが笑った。


「意外と子供っぽいところあるのね」

「普段から子供っぽいですよ、私」

「そうしてると貴女からも純粋さを感じるわ」

「普段の私には純粋さがないみたいな言い方やめてください」


 頬を膨らませてみせると「うんうん、女の子はそうでなくっちゃ」とOKのサインを貰った。よしりんさんの中での良し悪しの基準が良く分からない。肝心の三人はどこに行ったんだろうとベランダ側を探していると、二階からガタガタと音が聞こえた。どうやら二階にいるようだ、と見上げると「だから後片付けが面倒だって言ってんだろ!」「お前いるから手際いいじゃん」「横暴だなおい!」「どうでもいいから行くなら行かないか」と言葉だけでも誰がどの台詞を言っているのか分かる会話が聞こえてきた。


「……御三家って仲良しですよね」

「そうね。王様と子守りと宰相が揃ってるわ」

「子守りの負担が絶大ですけどね」

「だって弟がいるの遼ちゃんだけじゃないのー。総ちゃんも駿ちゃんも子供苦手だしぃ」


 言われてみれば確かにそうだ。月影くんは一人っ子で、実際一人っ子特有のマイペース感がある。松隆くんのあの性格はとてもじゃないけど類型化できないけれど、面倒見がいいかと言われると絶対に全くそんなことはない。小さい子を前にするとあの笑顔が一気に凍りつくか能面のようになる様子を想像して笑ってしまった。そんなことをしていれば扉の開く音がして「だから神社に何かあるだろ」「手間を省きたいからって……」「お前は俺を使って手間省こうとしてんだろ!」と言い争いの続きをしながら三人並んで階段を下りてくる。一番最初に私に気付いたのは松隆くんだ。


「あぁ、水着買えたの?」

「……買えました」

「なんで吉野の後ろに隠れてんの」

「おい吉野って言ったらその髪毟(むし)るって何回言えば分かるんだ?」

「だってよしりんなんてキャラじゃないだろ……」

「ねぇ、さっき話してた神社ってなに?」

「近くに神社がある。知らないのか?」

「すいません常識がなくて」
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