第二幕、御三家の嘲笑

「全くだ」

「少しはフォローしてよ!」

「ソクラテスに怒られはしまい」

「……どうもありがとうございます」


 (けな)しながらも月影くんは雑誌を渡してくれた。旅行のお供に使う、旅先でおすすめのお店とか食べ物とかが載っているあれだ。ほほう、とパラパラ捲っていると確かに神社がある。


「えー、これ縁結びの神様じゃん。私もっと健康の神様とかがいい」

「無病息災はどこでも(うけたまわ)っているイメージがあるがな」

「あ、この写真見て! 学業のお守りチラッと映ってる! やっぱり学業成就ってどこにでもあるんだね。でもツッキーは自力で勉強するから神様にお願いとかしないのか」

「いやする」

「あぁ、人事を尽くして天命を待つということですか?」

「その通りだ。ただ今回はな……。学問の神を(まつ)っているわけでもないのに学業成就のお守りがなぜあるのか」

「多分ツッキーみたいにいちいち何の神様かなんて気にする人のほうが少ないんだよ。でも縁結びの神様も学業成就願われちゃ(たま)んないよね。勉強ばっかりしてないで恋もしろよ、みたいになりそうじゃん」

「菅原道真に恋愛祈願をするよりはその(いきどお)りも些細なものだとは思うがな」

「分からないよ、世の中ツッキーみたいな人ばっかりじゃないんだもん。突然雷が落ちてきて天才になれますようになんて願う人もいるかもしれないじゃん。恋愛祈願じゃなくても菅原道真も怒り心頭かもしれないよ」

「そういった(たぐい)の人間には非凡になりたがる者ほど凡庸でしかないと気付いてほしいものだな」


 無病息災の話をしながら月影くんが神社の説明文を指先で辿り、私は学業成就の話をしながら写真を指差す。月影くんの指先はその興味が(おもむ)くままにその神社に祀られる神様の話を辿り、話は逸れに逸れてなぜか相手のいないディスりに入った。


「……仲良くなったね、二人とも」


 そして、最終的に、松隆くんの怪訝そうな声が応えた。確かに夏休み初っ端のあの日以来、月影くんに妙に親しみを抱いてしまっていることは否定できない。月影くんは基本的に松隆くんにも桐椰くんにも塩対応だから分かりにくかったのかもしれないけれど、ここまで二人で話が続いているのは初めてかもしれない。実際、桐椰くんも目を点にしていた。


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