第二幕、御三家の嘲笑
「えー、だから私言ったじゃん、ツッキーとも仲良くなったよって」

「寝言だと思ったんだけどなぁ」

「ねぇ酷くない?」

「行くなら早く行くぞ。城とトリックアート館に行きたいと言ってなかったか?」

「トリックアート館に行きたいと言ったのは桐椰くんですか?」

「なんで俺だって分かったんだよしばくぞ」

「それは理不尽ですよ!」


 パタン、と月影くんが雑誌を閉じた。それを差し出された桐椰くんは「あー、マジで縁結びじゃん」と神社の説明がされたページを開き直す。それを松隆くんが隣から覗き込んだ。


「んじゃ初恋の相手に会えますようにとか願っとけば?」

「お前最近そのネタ多いぞ!」

「何年も想ってるのに会えないお前が流石に不憫(ふびん)でさぁ」

「だったらもっと不憫そうな顔をしろよ」


 桐椰くんの初恋の人……。時々御三家の話題に出てくるけれど、私にはちょっとだけ口を挟みにくい話題だ。敢えて私に振られないなら口出しはしないでおこう……、と二人から離れて身支度をする月影くんの近くに寄る。当然のように鬱陶しそうな顔をされた。


「……いいじゃん私とツッキー仲良しじゃん」

「分かりやすく懐くのはやめてくれないか? 邪魔だ」

「だからそんな冷たいこと言わないでいいじゃん!」


 だって松隆くんの隣にもあんまりいたくないし、桐椰くんの隣にもあんまりいたくないし……頼れるのは月影くんだけだ。いや今ならよしりんさんがいるけれど。ちらと視線を向ける先にいるよしりんさんはボディバッグを持って髪をうなじの辺りで結んでいる。髪を結ぶと丁度束ねた部分だけがエメラルドグリーンになるように染めているらしい。それがお洒落なのどうかは私には分からないけれど、よしりんさんの拘りだけは伝わってくる。ついでにその横顔も体格も完全に男性だ。


「そういえばよしりんさんって何歳なんですか?」

「二十七歳よ」

「ほーう……」


 十歳も上だったんだ……。どうりで人生経験豊富そうな語りをするわけだ。納得の声を上げていると「んなこたどーでもいいのよ」とじろりとその目が私を睨んだ。


「……え?」

「え? じゃないわよ。これから出かけるのに貴女そのまま行くつもり?」


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