第二幕、御三家の嘲笑
 自覚はあるらしい。鼻の付け根が高いし、目元もはっきりしてるし、大抵は羨ましがられるような顔だと思うんだけどな。同じく彫の深めな桐椰くんを振り返る。後ろを歩く桐椰くんは松隆くんとまだぎゃーぎゃー話していた。コーヒーが飲めなくても生きていける、じゃあお前は彼女とデートしてオレンジジュース頼むの、彼女いたことないくせに何で説教されなきゃなんねーんだとか、物凄く低レベルな争いだ。現に月影くんは我関せずの表情で周囲を眺めて一人お散歩を堪能している。私が振り向いたことに一番最初に気付いたのは桐椰くんだ。


「おい、前見て歩けよ。転ぶぞ」

「桐椰くんも彫深いの気にしてたりしたの?」

「気にしてるのは童顔になりかねない二重の目だよ」

「なんでお前が答えるんだよ! 大体、深いって言ってもわりとだろ。吉野と比べりゃ普通じゃねーか」

「おい吉野って言ったガキはどいつだ? 一番下から階段上りなおせ」

「このクソ暑いのに階段上ってるだけでも勘弁してくれよ……」


 さっきから全然関係ない松隆くんが口を挟んでくる。桐椰くんを揶揄うためだから仕方がない。文句に関しては、体力がないわけではないのだと思うけれど、暑さも相俟って辛そうだ。真夏でも汗一つかかなさそうだと思ってたけど撤回しよう、ちゃんと松隆くんは人間だ。寧ろ一定のペースで真顔で上り続ける月影くんのほうが不思議な気がしてきた。桐椰くんは予想通り軽い足取りで上っていくので何も面白さはない。階段を上りきった後も息切れ一つすることなく、「縁結びにしてはすげー(さび)れてんな」と失礼なことを言った。


「お前、そんなこと言ってたら初恋の人会えないよ」

「だからしつこいんだよお前は!」


 ただ、桐椰くんの言う通りではあって、観光に来ている人は数組のカップルだけだ。カップルなのに女性の視線はよしりんさんに釘付けだ。確かに松隆くん達は同級生の私達から見たら恰好良くても、恋人同士で旅行するような年齢の人から見たら可愛いだけなのかもしれない。よしりんさんは口さえ開かなければとっても男らしい。いや、口を開いてもちゃんと聞いていれば男らしいのだけれど……。


「桜坂は恋愛祈願しなくていいの」

「うげっ」


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