第二幕、御三家の嘲笑
「だから! 松隆くんそういうキャラじゃないじゃん! もっとこう……、感情は顔にも態度にも言葉にも出さないタイプじゃん!」

「よく分かってるじゃん。そのままちゃんと分かりなよ」


 そして、また油断していた。みんながいるから何もされないと油断していた状態で、日傘の柄ごと手を掴まれた。逃げられないように手を半ば拘束された状態で、真顔の松隆くんが目の前にいる。


「この俺がこれだけ言うってことは、それだけ鹿島のやり方に腹が立ってるんだよ。それが分かんないの?」


 カッ、と、顔が熱くなる。最早怯えるように顔ごとを逸らした。でも手を離してもらえない。


「あのね、桜坂」

「だから、その、この間のが冗談だったとか、そんなことは言ってないから! ……私、松隆くんのことそういう風に見てないから、」

「ずっとそうかなんて断言できないだろ」

「それはそうかもしれないけど、」

「だからそう見られるまでいくらでも付け込むから。せいぜい気を付けなよ」


 付け込むとか……。あまりの恐怖に一周回って怯えは収まった。おそるおそる視線を戻せば、最後の最後にいつも通りの悪戯っぽい笑顔を残し、松隆くんは手を離した。掴まれていた手に体温が残っている気がする。日傘を強く握りしめて、恨みがましげに松隆くんを睨みつける。


「……やっぱり松隆くんは腹黒いです」

「今更だね。そうやって顔が赤くなる内は望みがあると思っておくよ」

「松隆くんは顔だけはいいから反射ですよこれは」

「一つもいいところがないと思われるよりマシ」

「ポジティブじゃないですか。なんなら頭もいいとは思います。性格が最悪ですけど」

「頭がいいことの裏返しだと思っておくよ」

「本当にポジティブですね! 松隆くんと話すと腹の探り合いになるから本当に気が抜けなくてやだ」

「その割には口を滑らせてることも多いから気を付けてね。告白の成果かな」

「だからっ……!」


 その最強の切り札を幾度となく口にするのを本当にやめてほしい。心底やめてほしい。楽しそうに意地悪な笑みを浮かべているのを見ていると、実は私を強請(ゆす)るために告白したんじゃないかとさえ思えてしまう。そういうわけではないと……、思うのだけれど……。


「……お願いだから、桐椰くんには言わないでよ……」

「何で遼?」


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