第二幕、御三家の嘲笑
 何で? 松隆くんも言ったじゃん、桐椰くんが私をどうのこうのって……! それを私の口から言わせたいのかと思うとその睫毛を引っこ抜きたい衝動に駆られた。


「だから! お願いだから本当にもうその性格の悪さを! しまって!」

「初恋の人、見つかればいいよね」


 そこでまた、その話題だ。思わず詰まると同時に、今日だけで二、三回聞いたそのキーワードの意味が──自意識過剰でなければ──分かってしまった気がした。顔色を変えた私を松隆くんが笑う。


「そういう頭の回転がいいところ好きだよ」

「……やめてください」


 軽口であってもいいはずなのにそうは聞こえなくて、ぷいっと顔を逸らす。


「松隆くんは本当……、布石を敷くのに……抜かりがないですね……」

「褒め言葉だと受け取っておくよ」

「ちょっと、そこのガキ二人」


 参らないの、というよしりんさんの呼び声が聞こえる。そちらを見れば、手招きするよしりんさんの隣に桐椰くんと月影くんの後ろ姿が並んでいた。


「行きましょうリーダー」

「……そうだね。あぁそうだ」


 渡りに船とはこのことだ、と慌てて爪先を向ければ──松隆くんの指先が私の頬を掠め、零れ落ちた横髪を耳に引っかけた。反射的に松隆くんの顔を見て、しまった、と内心で慌てる。


「その髪型可愛いよ」


 口角を吊り上げそう言い放った松隆くんは、何事もなかったかのように私より先を歩いて行ってしまった。茫然とした私は一瞬だけ取り残され、はっと我に返り慌てて追いかける。

 それでも、よく分からない感情で体は震えていた。〝似合う〟じゃなくて〝可愛い〟……。あの松隆くんが言葉選びを怠ったはずがない。多分自意識過剰ではない。わななく唇を抑え込むようにぐっと噛んだ。あの腹黒リーダー相手に、不覚にも心臓が跳ねてしまった。そのせいで、気温なんか関係なく、暫く引きそうにないくらい、顔が熱い。今までなら、どうせそう言えば照れることを分かって言ったんでしょうと言い返せたはずなのに。

『告白の成果かな』

 ……あのクソ腹黒リーダーめ。

< 265 / 438 >

この作品をシェア

pagetop