第二幕、御三家の嘲笑
 心を落ち着かせるため、ほんの数十歩をのろのろと進んでお賽銭箱の前に辿りつけば、月影くんは既に手を合わせていて(なんなら私が到着する頃には目を開けてしまって)、桐椰くんは私達を待つように五円玉を弄んでいた。よしりんさんに促されるがままに五円玉を取り出す。


「お前ら、何話してたの」

「ちゃんとお参りする桐椰くんが乙女チックだなって話」

「へぇ、お前に被虐願望があるとは知らなかった」

「殴るなら私じゃなくて松隆くんにしてください!」


 笑みと共に拳を震わせる桐椰くんに必死に松隆くんを指差してみせるけれど、私より一足先に五円玉を準備し終えた松隆くんは無視。結局「くだらねぇこと言ってないでちゃんと手合わせろ」と私が後頭部を(はた)かれた。嘘はバレなかった。

 桐椰くん、松隆くんに続いて五円玉を賽銭箱に放り投げる。よしりんさんの言った通り、多分私があの人をまだ好きでいることの半分は理性だと思う。未だ好き。でも、好きでいなくなることに対しての罪悪感がある。だったら、特別信じてもない神様に都合よく、自分可愛く頼むことは一つだ。手を合わせて俯いて目を閉じる。

 あの人に、新しい恋人ができますように。

 目を開けて、松隆くんに何か言われる前にそさくさとその場を去る。意外にも引きとめられることはなかったので、神社の写真を撮っている月影くんに近寄った。


「つっきー、どうせなら撮ってあげようか?」

「遠慮する」

「貴女ねぇ、そこは『撮って』って強請(ねだ)る可愛げないの?」

「それ可愛げじゃなくて度胸ですよ」


 だって月影くんにそんなこと言ったら絶対零度の睥睨が待ってるに決まってるじゃないですか。心の中で付け加えると、それを読んだ月影くんのマイナス五度くらいの視線は向けられた。


「御神籤引きたいとかも思わないわけ?」

「根拠のないものを信じる性格ではないので……」


 正直に答えてしまうと、はぁー、とよしりんさんは大きな溜息を吐いた。折角恋愛祈願で有名な神社に来たところで女子は私一人だし、その私もこういった類の話に興味がないせいでコイバナに花を咲かせることもできずテンションが下がってしまったとかそういうことだろう。その予想は当たっているみたいで「根拠がないとか!」と非難するように復唱される。


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