第二幕、御三家の嘲笑
 どきり、と真理をつきつけられた心臓が跳ねた。その通りだ。蝶乃さんにしてはまともなことを言う。でもやっぱり蝶乃さんらしく、「いい気味ね」と嘲笑を向ける。


「少し、気を付けたほうがいいんじゃない? 御三家はいつでも、貴女を守れるわけじゃない」


 そのまま、蝶乃さんは立ち去って行った。相変わらず短いスカートだ。後ろからみると本当にスカートの中が見えてしまいそう。階段を上るときはどうしてるんだろう、なんて首を捻ってしまう。


「……ご忠告、ありがとうございました」


 ただ、一応その背中に挨拶はしておく。親切心かな。私に何もしない蝶乃さんは本当に何もしてないのか、何かをしてるけど自分の手を汚してないだけなのか、よく分からない。

 BCCのせい (お陰?)で、男子が普通に声を掛けてくれることは多くなった。それも相俟って、女子の目線は一層ぴりぴりと痛い。確かに、御三家の仲間でありながら他校の雅からキスされてる、なんて光景は、いいご身分ですね、と言われても仕方がない。

『御三家の姫に仕立て上げるためだ』

 なんだか、泥沼に嵌っている気がする……。くるりと、もう見えるはずもない蝶乃さんを振り返った。どうしよう。私はもう、御三家から離れては此処で生きていけない。

 その事実に気がついた瞬間に、ゾクッと背筋が震える。まさかね……。さすがに杞憂だろうと、更衣室へ急ぐ。

 更衣室に着けば、既に三組の女子も混ざって大体の女子が着替え終えたところだった。さすがお金持ち高校、ジムにいるのかなって気分になるくらいには綺麗な更衣室は鍵付きロッカーだし、屋内プールだから雨の日も心配なく、気温が低くても水温は一定だ。前の高校では寒さに凍えながら入ってたからなあ、と隅っこで静かに着替えていると、コソコソと話し声が聞こえた。


「アイツ、阪守(さかがみ)に彼氏いるくせに」

「御三家にまで手出すとか」

「くそビッチ」


 ああ……。本当に雅のことを恨まずにはいられない。雅が余計なことをするからだ。大体、私が御三家に手を出したとか出さないとかじゃなくて、主従関係なんですって何度説明させるつもりなんだろう。BCCのためとはいえ桐椰くんとイチャつき過ぎたかなあ。でも腹が立つごとに頬を抓れって命令したのは松隆くんだしなあ。


「……面倒」


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