第二幕、御三家の嘲笑
 まだ笑っている桐椰くんが涙を拭いながらよしりんさんのスマホを受け取った。よしりんさんは「アタシはこれね!」とパネルの裏に入って、予め空いていた楕円形の穴から上半身を出し、手を伸ばす。まるで最初からその絵を狙ってポーズを思い描いていたかのように、そのポーズは完璧だった。顔も満足げだ。でも桐椰くんはシャッターを切らない。なんなら笑っていた松隆くんもその図を見て笑みを引っ込めた。


「…………」

「……ちょっと何で撮らないのよ」

「……いやお前……流石にお前のガタイで人魚は無理があるわ」


 月影くんがくれた笑いはどこへやら、松隆くんも桐椰くんも能面のような真顔になっていた。

 そんな出来事によしりんさんは当然憤慨したけれど、その後無事順々にトリックアートを制覇し、桐椰くんはご満悦だった。松隆くんは「なんでこの年になって黒歴史残さなきゃいけないんだ……」と恨みがましげにぼやいていた。月影くんを少しは見習うべきだ。


「で、城に行きたがったの誰?」

「僕ですね」

「そこの二人は男のロマンがないわけ?」

「なんでお前男語ったり女語ったりするの? せめてどっちかにしてよ」

「アンタこそ王子なのか悪魔なのかどっちかにしなさいよ」


 トリックアート館の隣にあるお城はそんなに大きくない。唯一返事をした月影くんだけが(無表情なりに物凄く分かりにくく)目を輝かせて展示物を見ていて、その隣でよしりんさんも「うわーこれはアツいわ」なんてよく分からない感想を呟いていた。一方で松隆くんと桐椰くんは「へー」とでも聞こえてきそうな表情で眺めるだけだ。


「二人共こういうの興味ないの?」

「ないことはないけど、駿哉みたいに歴史が特別好きなわけじゃないからね」

「松隆くんって一体何に興味があるの?」

「知りたい?」

「ううん、知らなくていい」


 ただの他愛ない話だったのに聞き返してきた松隆くんの笑みに危険を感じて会話をぶった切った。ちぇっ、なんて、想定通りのくせに残念そうな返事をして、松隆くんは順路を少し進む。ちょっとだけ距離が開いて二人になったのが丁度良かったのか、桐椰くんが怪訝な顔をした。


「お前、総と何かあったの?」

「何もないよ?」


 平然と答える準備なんて、できている。


「ふーん……」

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