第二幕、御三家の嘲笑
「お前、化粧しても大して顔変わんねーな」

「今日は速さを優先しましたからね。BCCのときくらいしっかりすれば変わると思うよ」

「いや、化粧の前後で印象変わんなくて今朝と普段とで印象違うんだから絶対髪型と眼鏡だな。ったく、普段からそうしてれば少しは扱いも違うってのに……」


 ……思わず目をぱちくりさせてしまった。扱いを変えてしまうということは、どういうことか。私の反応のせいで何を口走ったか気付いた桐椰くんが慌てて唇を引き結んだ。その顔はやっぱり段々赤くなる。


「……なんでもない」

「えー? もっと存分に褒めてくれていいんだよ? 普段からこうしてたら何が違うの? ねえねえ?」

「うるせーな! 少しはマシになるって言ってるだけだよ!」

「マシって具体的に?」

「だから……ッ!」


 桐椰くんは言いたいことを必死に堪えるような顔でそっぽを向くだけだ。「ねえなにー?」とその顔を覗き込んで揶揄う。本当はこんなことをして遊ぶべきではないのかもしれないけれど、桐椰くんの反応が面白くてやめられない。それに──松隆くんのお陰で、私の抱く懸念は杞憂になるかもしれないし。それは少しだけ寂しいけれど。


「ねー桐椰くーん」

「あーもううるせぇな! いい加減に黙ってろ!」

「あう」


 顔を触るとファンデーションがつくからという理由で横暴にも頭を掴まれる。桐椰くんの手は大きい。


「髪が乱れたらよしりんさんに怒られる……」

「知らねーよ、直してもらえばいいんだからいいだろ」

「怒られるのが嫌だって言ってるんじゃん。桐椰くんがぐしゃぐしゃにしたって言いつけるからね」

「お前のただじゃ転ばない精神すげーな」


 手を放してくれた桐椰くんは「全く、」と呆れたような声を出しながらその金色の前髪をぐしゃっと掴む。あぁ、照れてるときの仕草だ。いかんせんまだその耳は赤い。


「まぁそういうのがお前の可愛げだからいいけどさ……」


 そして今度こそ、口が滑った。たっぷり一拍、お互いに固まる。


「…………」

「…………」


 駄目だ、何か言わなきゃ。煽らなきゃ。最早桐椰くんを煽るのは私の使命であり義務だ。だから今すぐ桐椰くんを揶揄って誤魔化さなきゃ。そう思ったのに、言葉が出てこない。それどころか、気のせいでなければ私の顔まで熱い。


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