第二幕、御三家の嘲笑
 叫び声を上げてしまいそうになるくらい、耳元で囁く松隆くんの声は切なかった。私が〝リーダー〟という呼称を選べることが、私と御三家が仲間であること──否、仲間でしかないことの証明だと、松隆くんは分かっていた。

『で、も、だって、』

『本当は言うつもりなんてなかったんだけどね』

『と、取り敢えず離して、』

『やだよ』

『何で!』

『離したくないから以上の理由、要る?』

『そんな理由松隆くんらしくない、』

『たった三ヶ月で俺を語ろうなんて、いい度胸してるよね本当』

 ぐっと腰が抱き寄せられるのとは裏腹に、顔は上向かされて、松隆くんと目が合った。真っ赤だね、と私の頬を捉えていた松隆くんは笑った。いつもの意地悪な笑顔じゃなくてただの優しい笑顔だった。だから余計に顔が赤くなった。

『そのくせ間違えないから、いいんだけどね』

『あの……、だから、松隆くん、』

『あぁ、そうだね。好きしか言ってなかったね』

 そんな微笑み方をしながら言うなんて、反則だ。

『付き合ってくれる?』

 そんなの、本当に松隆くんらしくない。偉そうな松隆くんは、どんな場面であっても頼むような言い方をする人じゃないと思っていた。

『……それは……』

『答えが出ないなら後日でもいいよ』

『……答えは出てるよ』

『……まだ幕張が好きだから?』

 その質問には答えられなかった。好きな人は幕張匠じゃない。でもその嘘を吐くことなんてできなかった。そんなの──私が躊躇する理由にしては滑稽にも過ぎるかもしれないけれど──不誠実だ。それでも、否定しないことは傍目には肯定に等しかったらしくて、松隆くんは溜息で返事をした。

『……まぁその答えは分かってはいたけどさ』

『……松隆くんとは付き合えない』

『BCCの時に話してたことからして、幕張と付き合うつもりはないんでしょ?』

 あの人ともう一度付き合おうなんて思ってない。それどころか、そんなの無理だってことくらい分かってる。

『……そうだけど』

『だったら俺と付き合って忘れようとか思わないの?』

『思わない』

 でもそんなことは今この場で松隆くんの告白を断る理由じゃない。きっぱりと言えば、松隆くんは些か不思議そうな顔をしてみせた。

『松隆くんと、そんな付き合い方したくない』

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