第二幕、御三家の嘲笑
「それはその……、なんとか誤魔化せませんかね……あの日に月影くんが私を送ってくれたわけですし……」

「誤魔化せないこともないがな。実際、君の正体を知っていようがいまいが俺の答えは決まっていたことだ」


 月影くんの信頼の基礎は私と蝶乃さんの口論にある。それなら……、月影くんが松隆くんに訊ねられたところで、ちょっと照れくさい幼馴染への思いやりを口にしてしまう羽目になるだけだ。ただそれは月影くんに悪いような気もした。一方で御三家ならそんな月影くんの極端な感情のふり幅を知っていそうなのでそう取り立てて問題にする必要もないような……。


「そんなことより、何故総がそんなことを口走ったのか気になるな」

「あー……リーダーは感情隠すの上手いですからね」

「そうじゃない。総は負け戦はしないからな、君が断らない状態を上手く見計らって口にするほうがアイツらしい。その状態というのは感情でも状況でもどちらでもいいわけだが」


 全くもってその通りだ。そして、その状況に心当たりがあり過ぎる。


「……状況だったのかもしれません」

「そうだな、一体どんな状況でそれを言われたんだ」


 相談料ということで私が率先して玉葱を切ることにした。そのまま「あぁ、コンタクトの君は平気だろうからそのまま全部やってくれ」と全部押し付けられた。やむを得ない。


「……その……生徒会長がいるじゃないですか」

「鹿島明貴人のことか?」

「そうですそれです……その……、鹿島くんに、キス、されまして……」

「ほう」


 今度は月影くんはお肉を切る手を止めなかった。なんで松隆くんの話をしたときには動揺したのに鹿島くんの話は平然と聞けるの? 鹿島くんの事件がショッキングなのは私だけだから? 月影くんにとっては驚きもしない話なのかな?

「……まぁ……、その、勿論、松隆くんは何でと思うわけで……」

一応御三家(おれたち)と敵対関係にはある組織の(おさ)だからな、ごく自然な反応だ」

「……鹿島くんのその行為が……、あまりに酷かったので……私が泣いてしまって……」

「はぁ……」


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