第二幕、御三家の嘲笑
 また月影くんは溜息を声に出した。私は玉葱を切っているせいで口呼吸を穏やかにするしかないというのに。そして相変わらず動揺することはなく、お鍋を火にかけてお肉を炒め始める。ジュッ、と油が火にかけられたときのいい音と香ばしい匂いが立ち上った。


「総は女の涙を鬱陶しいと一蹴するから、君が泣いたこと自体とは関係なさそうだな」

「この状況で松隆くんの株を落とすのはやめてもらえませんか?」

「総と鹿島は何もないはずだが、鹿島の行動を受けての行動だとしたら何かあると勘繰らざるを得ないな」

「や、やっぱりそうですよね!」


 月影くんは私のまな板をひょいと取り上げ、炒め終えたお肉と共に炒め始める。手際がいいとまでは言わないけれど、それほど不慣れな様子はない。確かに普通に料理はできるようだ、特にカレー程度なら。


「ところで、君が鹿島とキスした理由は何だ?」


 それは、私にも分からない。寧ろ一緒に考えてほしいのはそこだ。そこで一度、桐椰くんが未だ役割を終えていないことを確認するべく後ろを振り返る。浴槽を洗うシャワーの音も聞こえているから問題ない。


「……鹿島くん、幕張匠のこと知ってるんですよ」

「……それは初耳だ」


 漸く、その返事に一拍置かれた。


「……何故だ? その頃の知り合いか?」

「いえ、私は心当たりはありません……」

「鹿島自身もそういった界隈に縁はなさそうな人間だからな。総のように一時期関わっていた話も聞いたことがない。もしかしたら生徒会長として君の個人情報を知っているから結びつけてしまったのかもしれないな。で、それと今の話がどう繋がる?」

「それが私にも分からないんですよ……」


 月影くんに目だけで指示されて、包丁とまな板を洗う。そう、それだけが本当に分からない。


「その、バラされたくないなら言うことを聞けみたいなニュアンスのことは言われたんだけど……、それとキスっていうのがどう関係するのか……」

「……取り敢えず情報を整理させろ。君と鹿島が接触したのは何処でだ?」


 ……しまった、月影くんの誕生日プレゼントを買いに行ってたとは言えない。でも月影くんの横目がじっと見てくる。


「……えっと、桐椰くんと松隆くんと出かけてて……」

「妙な面子だな。それで」


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