第二幕、御三家の嘲笑
 でも居心地は悪いから、制服を畳んでロッカーに片付けて、眼鏡を外して髪を結ぶ。そうだ、プールの日は眼鏡をかけられないからコンタクトを持って来ようと思っていたんだった。また忘れてしまった。朧気な視界に思わず顔をしかめてしまうけれど、みんなの顔が見えないというのは幸いだ。誰に何を言われているか、あんまり気にせずに済むし。

 はあー、と深い溜息を吐きながらプールサイドに並ぶ。先生の話を聞く感じ、どうやら今日は二十五メートルのタイムを測るらしい。因みに水泳担当の宍戸(ししど)小百合(さゆり)先生はインハイにも行ったことがあるとかで、三十代後半に差し掛かった今でもその体はキッチリ鍛え上げられている。


「二人組を作ってどちらが先に測るかだけ決めてください。タイムを測ったらペアで提出、その後は自由時間にします」


 二人組を作って測るなんて地雷じゃん! 御三家と仲良しで雅まで出てきた今、私とペアを作ってくれる人なんているはずがない。体育でさえなければ桐椰くんがいるからぼっちだねーと一緒に何かすればいい話なのだけれど、体育は女子しかいない。ショックを受けていると、同じことを考えた女子がくすくすと笑う気配がした。

 ただ――二列に並んだ状態でかろうじてシルエットを確認すれば――三組と四組を合わせると女子の数は偶数だ。これなら問題ない。それは私以外にとっても好都合らしくて、いつも奇数で一緒にいる女子グループ同士がくっついてペアを作っていた。私が誰と組むことになるのかは分からないけれど、どうせ相手も余りものなんだから待っておけば済む話……。


「……亜季ちゃん、私とペアだね」


 そう思っていた私の前に歩み寄ってきたのは有希恵だった。ピクッと眉の寄ってしまうのが自分でも分かる。二か月以上話してなかったのに、余りものとして話すことになるなんて随分な皮肉だ。


「……そうだね」

「私、先に泳いでいいかな。早く済ませたいから」

「いいよ、どっちでも」


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