第二幕、御三家の嘲笑
 気付かない……。やっぱり月影くんって妙なところで鈍いんだな……。


「偶々一人になってたところに鹿島くんに遭遇しちゃって……」


 とはいえ有難いといえば有難い、と記憶を順番に辿っていて、話すべきもう一つのことを思いだす。


「あの日! 御三家に助けてもらったあの日のこと、鹿島くんが知ってて……!」

「……何?」


 お肉と野菜を煮込み始めた月影くんは鍋から視線を外した。洗い物も終えたので取り敢えず準備はひと段落した。月影くんは小休止するように腕を組む。


「知っていたとはどこまでだ?」

「全部。何から何まで、その場にいたみたいに全部知ってた」

「……困惑したのは分かるが、もう少し普段のように理路整然と話してくれ」

「あ、すいません」


 注意された通り、時系列に沿って説明することを心掛ける。雅が私を餌に使った理由、本当に現場にいたようにしか思えなかった鹿島くんの言葉、(ただ)し仕組んだのは自分でないという奇妙な弁解、そして──やってきた桐椰くんにわざと見せるようにされたキス。そのキスの直前に遠回しとはいえ逆らわないように言われたこと、そして、桐椰くんも松隆くんも、あの日の出来事を鹿島くんが知っていることは知らないこと。全て話し終えても、月影くんの眉間の皺はなくならないどころか一層深くなった。


「……全く目的が見えない」

「ですよね……」

「……鹿島が何をどこまで知っているかにもよるからな」

「……でも、他に何か大事な情報ある? わざわざキスする理由になるような……」

「思い当たらない。そもそも御三家(おれたち)と生徒会長との関係も、味方ではないのは確かだが、明確に敵とは言い難いからな」


 その通りだ。御三家と生徒会が対立していたのはあくまで透冶くんの事件があったから。クラスマッチの様子を見た松隆くんが「気分が悪い」と零しはしたけれど、その感想を抱いたからといって御三家が今すぐ生徒会を潰しにかかるわけではない。何より、鹿島くんは金持ち生徒会を憂いている……。


「可能性として考えられるのは鹿島が君に好意を寄せていることか……」

「……愛情表現が捻じ曲がりすぎて無理」

「まぁないだろうな。寧ろ有り得るのは、その好意を御三家の目の前ですることに意味がある場合だ」

「……お前達の下僕は生徒会側だぞ、ってことですか」

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