第二幕、御三家の嘲笑
「あぁ。いつでも寝返らせるだけのカードを持っていると見せつけ、御三家(おれたち)が君を切り捨てるように仕向けたかった、というのは大いに有り得る話だ」


 その、言葉に、ゾクッと背筋が震えた。松隆くんの性格なら冷然とお荷物なんて切り捨てると鹿島くんだって分かってるはずだ。やっぱり、私がもう御三家なしには生きていけないことは御三家だけの思惑ではなかった……? 御三家に協力するときに御三家が(こだわ)った条件──絶対に生徒会側につかないこと──を、私は満たせないと、そしてそれは狙い通りだったのだと、鹿島くんは示唆したとしたら……。


「……まぁ、残念ながら総は君を見捨てないわけだが」

「ちょっと残念ながらとか言うのやめてくださいよ……でも、それが鹿島くんの誤算だった可能性はあるよね」

「あぁ。五月の総なら必ず君を捨てた。それは断言できる」

「……いや、知ってたけど。そこまできっぱり言われるとちょっと……」

「だが捨てられていないのが現実だ」


 月影くんはそこで一度お鍋の様子を確認した。


「だから鹿島の行動の意図がそこにあったとしたら、失敗したということになるな」

「……そうですね」

「だがそう簡単に安心するわけにもいかないだろうな。そもそも菊池を利用して君を襲わせたのが誰なのかという点も気になる……」


 そこで月影くんは言葉を切った。しまった、とでも言うようにその無表情が僅かに動く。カレーの具材のことではなさそうだ、なんて呑気なことを考えて──妙に沢山のことを話す時間があったことに気が付いてしまった。

 桐椰くんが戻って来ていてもおかしくない。弾けるように背後を振り返る。嫌な予感は的中した。キッチンと脱衣所とを仕切る扉のスリガラスには、ちゃんと人影が映っていた。


「……桐椰くん、」


 月影くんは額を押さえた。私の心臓はドクドクと鼓動する。馬鹿だ、私は。なんでもっと頻繁に確認しなかったのだろう。一番聞かれたくないことを口にする前に確認しただけで安心するなんて、本当に、馬鹿だ。

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