第二幕、御三家の嘲笑
 静かに、片引き戸が開く。その視線は気まずそうに斜め下に落ちていた。喉がカラカラに渇いた。どこから聞いていただろう。最初に幕張匠の話をして以降、その名前は出したっけ。松隆くんに告白されたことはそれよりも後だっけ──前だ。じゃあ鹿島くんの狙いを考えていたときにその話題をもう一度出したっけ。

 頭の中は、真っ白だ。


「……ね……、桐椰くん……」

「……どっから聞いてたか聞きたいんだろ」


 ぐっと、押し黙る。そう言うのも、そう言わせるのも、どちらも間違っていることは分かっていた。


「お前が襲われた日のこと、鹿島が知ってたってところからだよ。お陰で、鹿島か花高の誰かがあの件に噛んでたことも、お前が鹿島とキスしたのは脅されたからなんだってことも、お前の立場も分かったよ」


 じゃあ、幕張匠のことは聞かれてない。ほっと安堵したのに──それだけじゃあ、桐椰くんの表情を説明できない。何でそんな表情をしているのだろう。


「……〝さっき話した理由で鹿島くんには逆らわないように言われた〟って、駿哉に話してたな」


 幕張匠のことをバラされたくなければ逆らうなといったニュアンスのことを言われたと、そう言ったときは桐椰くんの姿がないことは確認したはずだ。時系列に従って話したときは、今桐椰くんが口にしたように省略したから問題ない、はずだ。


「……俺には話せないのに、駿哉には話すんだな」


 ──問題ない、はずなのに。桐椰くんには幕張匠だってバレなかったから、そんな裏切られたような顔をする必要なんてないはずなのに。知られて困ることは知られなかったはずなのに。桐椰くんが今知った情報は、鹿島くんが雅の事件を知っていたことと、それに花高生が絡んでいたことだけであるはずなのに。


「……何もないって言ってたけど、どうせ総と何かあったんだろ」


 なんで、分かるの。だって私は御三家と初めて会ったときから何も変わってない。呼吸をするように嘘を吐けたはずだ。それなのに、どうして見抜けたの。


「お前が何もないって言うからあれ以上聞かなかったけど……総には話したとかそういうことか? 俺には何も理解ってないくせにとか言ったくせに、帰り道で総には話したのかよ? ……で、そういうことも含めて、どうせ駿哉には全部話したんだろ」


 自嘲気味に、桐椰くんは笑った。


< 282 / 438 >

この作品をシェア

pagetop