第二幕、御三家の嘲笑
「……お前にとって、俺は何なの? 友達だって、お前は答えるんだろうけどさ」


 友達だ。桐椰くんは、友達。ただ、雅と違って過去の私を知らなくて、月影くんと違って私が幕張匠だったと知らなくて、松隆くんと違って私との関係を疑う余地もない友達。


「俺は、駿哉より──総より、お前から遠いの?」


 その確信こそが桐椰くんを傷つけるナイフになると、どうして私には分からなかったのだろう。

 沈黙が落ちた。桐椰くんの台詞から考えれば、まず帰り道で松隆くんとあったことについて誤解を解くべきだ。桐椰くんと口論になってた以上黙っていることはできなくて、鹿島くんとキスしたことだけは話した、と。でもそしたら〝なにかあった〟ことの説明はどうすればいい? 松隆くんに告白されたって言えばいい? それは言いたくないし私が桐椰くんに言うべきことでもない。告白のことを言わずに松隆くんに関する弁解を終えたとしても月影くんに喋ってしまったことはどう説明する? 桐椰くんにも松隆くんにも話せなかったことを月影くんに話せた理由は……。

 駄目だ、言い訳なんてできない。どうすれば桐椰くんを誤魔化すことができるか必死に頭を回すのに、答えは見つからない。鉛のように重い空気の中でもどうにか頑張る私の頭は、答えをくれない。


「……お前風呂入れば」

「……え……」


 そんな中で、予想外にも、口を開いたのは桐椰くんだった。視線の先の桐椰くんの目は私を見ていなくて、そのせいで私も目を逸らしてしまう。


「でも……、ほら、」

「別にお前がいない間に駿哉に訊いたりしねーよ。お前らに任せた晩飯が心配なだけ」


 桐椰くんがそんな狡いことをするとは思っていないのだけれど……、どうしてわざわざ順序を変えてまで私をお風呂場に押し込もうとするのか分からない。でもその理由の一つに私の言動はきっとあって、問いただすことが桐椰くんを余計に攻撃するってことくらいは分かってる。そのせいで気持ちを言語化することは叶わない。


「えっと……、」

「着替えとってくれば」


< 283 / 438 >

この作品をシェア

pagetop