第二幕、御三家の嘲笑
『友達だと思ってた相手が、実は自分のことを友達だと思ってくれてないなんて、裏切りもいいとこだよね』

「雅……」


 雅は──私のことを、異性として好きだと言った。でも、幕張匠だったとき、雅はそんな素振り見せなかった。きっと、私が雅にそう望んでいることを雅は分かっていて隠してくれていた。

『本当、君は、いい狗を育てたよね』

 頭の頂点まで、湯船の中に沈み込む。鹿島くん曰く、雅は私を差し出すよう強要された。条件を呑むまで殴られた。私が雅にそこまでさせた。

 桐椰くんと雅は違う。桐椰くんが雅と同じようになる危険なんてない。でもその気持ちを踏みにじろうとしているのは、雅と同じだ。

 お湯の中から顔を出すと、髪が肌に張り付いた。首から肩、肩から腕にかけて張り付くほどに髪は伸びた。金色に染めていた髪はすっかり黒くなって、傷んですらいない。幕張匠の面影なんてどこにもない。ずっとずっとなりたかった幕張匠は、いない。浴槽の縁に頭を預けた。


「……せめて、桐椰くんの初恋の人さえ見つかればな」


 そうすれば、桐椰くんはあんな顔をしない。……自分に都合が良くないからって、他の女の子を宛がおうとするなんて最低だ。良い結果を担保しようとしていること以外、結局桐椰くんの気持ちを踏みにじっていることには変わりない。

 それでも、今なら松隆くんという共犯者はいる。それもまた松隆くんの気持ちを利用する最低な行為だけれど、結局私にはこんな生き方しかできない。

『亜季ちゃんだよね? 迎えに来たんだ』

『こんなものを見せられて……、反って吐き気がする。こんなの、ただの証明じゃない』

 また一つ、桐椰くんに嘘を吐こう。バレさえしなければ、桐椰くんが傷つくことはない。私と理解り合えないことを哀しんでくれる桐椰くんを哀しませない、それがきっと一番いい方法だ。

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