第二幕、御三家の嘲笑
 お風呂を上がると、松隆くんとよしりんさんが帰宅していた。「大体なんでカレーに醤油を入れるんだ」「味が分からないお子様はこれだから」とよく分からない言い争いが聞こえてくる。ただ私の顔を見たよしりんさんが「風呂入るわ」と一言告げたお陰で争いは終結した。ついでによしりんさんは私とすれ違いざまウィンクをして「貴女の後に男が入ると変な想像しちゃうからアタシで中和するわ」と言ってくれた。よしりんさんは男じゃないことが分かった。言い争いをしていたもう一方、松隆くんはリビングのソファに座ってテレビのリモコン片手に「本当あのオカマ許さねぇ」とぶつくさ呟いている。感情剥き出しの松隆くんは新鮮だ。キッチンでカレーのお鍋は火の止まったコンロの上に置いてあって、野菜も綺麗になくなっていることからすれば桐椰くん達は一通り夕飯の準備を終えてしまったのだろう。二人の姿は見えないから部屋だろうか。


「ねぇ桜坂」

「なに?」

「駿哉と遼の空気、凄く重かったんだけど、俺達がいない間に何かあったの?」


 ストレートド直球だ。ただ桐椰くんと月影くんの間で何がどうなることはない……とは思う。桐椰くんが、月影くんだけが知っていることに「なんでお前だけ」なんて感情は抱かないだろう。月影くんは私に何の感情も抱いていなくて、桐椰くんはそれをよく分かっているだろうから。問題は松隆くんだ。桐椰くんが他人の感情に敏感であればあるほど、私は松隆くんには何でも話したと誤解されていることはとてつもなく危険だ。


「……なにもないと思う」

「そう」

「……あの、松隆くん」

「なに?」

「……桐椰くんって、この間の帰り道のこと知ってるの?」

「あぁ、俺が桜坂に告白した話?」


 張本人からさらりと告げられ、気まずさゆえにぐっと押し黙る。松隆くんはリモコンをテーブルに置いて、ソファの背に片腕を乗せて振り向くといつもの意地悪な笑みを向ける。


「知らないよ? 言って欲しいなら伝えとくけど」

「結構です」


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