第二幕、御三家の嘲笑
 仮に桐椰くんがそのことまで知っていたら、事態は最悪かもしれない。即答した私の思考回路をどこまで読み取ったのかは分からないけれど、松隆くんは「座れば?」と言うだけだった。じっと黙って立ち尽くしていると「そんな警戒しなくても、別に風呂上りだからって押し倒したりしないよ?」と笑顔でとんでもない台詞を吐かれる。これはこれで頭痛の種だ。


「……だから最近の松隆くん、キャラ崩壊してるよ……。今までの松隆くんならそんなこと言わなかったじゃん……」

「だから言ってるだろ、桜坂は言わないと落ちなさそうだからって」

「……何を言われても変わらないよ、私」


 渋々、二人掛けのソファで命一杯距離を取り、松隆くんの隣に座る。隣というか、よしりんさんでさえ座ることができそうなほど間が空いているので最早同じソファに座っているだけだ。


「強情だなぁ、桜坂は」

「……この感情に強情も何もなくないですか」

「そうだね。好かれようと思ったことがないから苦労してる気がするだけかも」

「……あんまりその話しないでもらえませんか」

「戸惑う桜坂は新鮮だから」

「……私で遊ばないでください」

「だからこれは靡いてくれるのを待ってるんだって」

「もう少し穏やかに待ってくれないんですか」


 そもそも待たなくていい、とはなんとなく言えなかった。普段の言葉選びならもっと簡単にできるのに、こんな感情を前にしたときの言葉の選び方なんて分からない。


「穏やかに、ねぇ」


 テレビを見てもいないくせにテレビから目を離さない松隆くんは肘掛けに肘をつく。


「余裕があればもう少し穏やかなんだけど、俺も」

「余裕?」

「いつも余裕綽々(しゃくしゃく)じゃん、って言いたげだね」


 その通りだ、流石松隆くんは私の言いたいことをよく分かってる。


「お生憎、そう余裕がなくてね。俺も困ってるんだよ」


 余裕がない……、とは、どういう意味だろう。月影くんと話したときに考えたように、鹿島くんの行動が松隆くんの行動の理由だとしたら、生徒会と争いに関係のあることだろうか。少なくとも松隆くんの表情からは何も読み取れない。


「……全然困ってるように見えない」

「そう見えるだけだよ。早く付き合ってくれると助かるとは思ってるよ」

「……それはないって言ったじゃないですか」

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