第二幕、御三家の嘲笑
 その暗がりの中で、松隆くんがペンケースの入った箱を放り投げた。蝋燭の光のお陰で、月影くんがそれをキャッチする様子が見える。


「誕生日おめでとう」


 ぞんざいなプレゼントの渡し方とは裏腹に、松隆くんの声にはいつもとは違う穏やかさがあった。もしかしたら、透冶くんがいなくなった三人にとって、誕生日は去年と違う意味を持つものなのかもしれない。


「今年も元気にがり勉してろよ」


 生まれてきてくれてありがとうとか、生きててくれてありがとうとか、そこまでの言葉は桐椰くんでさえ恥ずかしくて言えなくても、それだけの気持ちが込められた祝福なのかもしれない。


「……あぁ」


 いつだって無表情の仮面を被った月影くんが笑ってしまうほど。


「ありがとう」


 本当は、この誕生日会には、私の代わりに透冶くんがいるはずだったんだろう。引率者のよしりんさんがいるとはいえ、私はやはり部外者のような気がした。明かりが付いていないのはありがたい、咄嗟に表情を曇らせてしまったのが見られてしまったら台無しだ。

 男の子同士の誕生日祝いなんて簡単なもので、ハッピーバースデイを歌うこともなく、月影くんが蝋燭の火を吹き消し、作業のように再び明かりが点く。包丁を持ってきた桐椰くんがケーキを完璧に五等分をしている間、月影くんはプレゼントの包装を開けて中を確認する。


「ペンケースか」

「お前いい加減あのクソダサい筆箱を買い替えたほうがいいと思って」

「使えるからいいと思っていたんだが、確かにこの年齢であれほど過剰にデザインが主張されているのもどうかとは思っていたからな。ありがたく受け取る」

「貴方もっと素直にありがとうって言えないの?」


 ご尤もだ。でも月影くんは頬が緩んでいるし、月影くんなりに精いっぱい素直にお礼は言ったんだと思う。だがしかし、苺と生クリームという王道のケーキと一緒に写真を撮ってあげたのに月影くんはすっかりいつもの無表情に戻っていた。蟹とのじゃんけんのときのノリの良さは何処へ消えてしまったのだろう。


「ツッキーはもう少し笑ったほうがモテると思うよ」

「相手が求めてもいないアドバイスはお節介だと習わなかったか?」

「そんなキツイこと言う?」

「まぁ遼のごとく表情豊かな駿哉はそれはそれで気持ち悪いと思うけど」

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