第二幕、御三家の嘲笑
 本当は見えないはずなのに、至近距離に立っているせいでその視線が一瞬泳いだのが見えてしまった。そんな態度と裏腹に、栗色の髪を筆頭とした派手な装いは四月と変わらないままだ。それなのに生徒会役員だというのだから、つくづく変な制度だと思う。いくら透冶くんの事件を隠蔽するためとはいえ、そこまでする必要があったのだろうか。宍戸先生からストップウォッチを受け取り、有希恵の後ろについて一番離れたレーンに向かう。有希恵はくるりと振り向いた。


「……亜季ちゃん、本当はそんな顔してたんだね」

「え? ……ああ、前髪長いし眼鏡もかけてるから、あんまり分からないよね」

「……最初からちゃんとしてればいいのに」


 小さく呟いたその顔には分かりやすい恨みが籠っていて呆れてしまう。


「本当は可愛いんです、って言い逃げしたように見えるってこと?」

「……分かってるならやめれば」

「あれはBCCのためにやったことだもん。コンタクト代もかかっちゃうし」


 眼鏡を外すつもりはない。理由は、自分の目が嫌いだから。だからできるだけ小さくして隠しておきたい。そんなことも知らない周りがとやかく言う権利なんてない。でも有希恵は言い訳だとでも言いたげな目を向ける。


「でももっとどうにかできるでしょ……。あざといようにしか見えない」

「言っとくけど、御三家と私は主従関係だよ?」


 何度も何度も心の中でした説明を、もう一度言葉にする。


「みんなが羨ましがるような関係じゃない」

「……それ、本気で言ってるの?」


 それなのに、有希恵の目は冷たく細められる。そんなことはどうでもいい、と。


「そんなこと気にしてるのは無名役員以外の生徒会役員だけだよ。私達が言ってるのは、亜季ちゃんだけ守ってもらうなんて狡いよねって話。一般生徒と無名役員は生徒会に逆らえないのに、亜季ちゃんだけは御三家に守ってもらってるんだから」


 ああ、そういうこと……。みんながなにかと私を睨むのは、やっぱり生徒会が嫌だからなのか。


「……なるほど」

「だから亜季ちゃんは狡いんだよ」


 狡い――……。狡いなんて思われることを、私はしてるのだろうか。


「……でも有希恵は、自分から無名役員になりたかったんだよね? そのために頑張ってたんじゃないの?」

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