第二幕、御三家の嘲笑
「だから何で俺を引き合いに出すんだよ」


 夕食の席順通り、月影くん、私、よりしんさん、松隆くん、桐椰くんの順にぐるりとリビングのテーブルを囲んだ状態でケーキを頬張る。誰かの誕生日祝いにホールケーキを分けて食べるなんてことは二回目だ。お陰でどんな顔をすればいいのか分からず、黙々とケーキを頬張ってしまう。普段なら甘いもの好きな桐椰くんは嬉しそうだね、なんて煽ることができたはずなのに、できない。松隆くんはブラックコーヒーと一緒に食べていたので、相変わらず隙がないね、なんて言いたかったのに、それもできない。

 どこか一ヶ所の歯車が、ズレてしまった気がする。なぜだろう。上手く回っていたはずの関係が上手く回らなくなっている。

『のめり込んだ後に捨てるのは辛いだろうよ?』

 何故か、不意にBCCでの鹿島くんの言葉を思い出してしまった。御三家がいないと学校で生きていけません状態の私に、いつか私が御三家を捨てるかのようなことを言った鹿島くん。あの時はどういうことか分からなかったし、具合が悪かったのもあってあまり考えなかったけれど……、この状態を見越していた、なんてことは、あるのかな……。でも別に私が御三家との関係を断たなければいけないことが確定したわけでもない。

『思った以上の成果を、ありがとう』

 もしその二つの言葉を繋げるとしたら、私が御三家の関係を引っ掻き回すことを鹿島くんが狙ってたことになるけど、そんな迂遠(うえん)なことをする必要があるだろうか……。確かに透冶くんを失くした御三家がその結束を失くすことなんて到底考えられないかもしれないけれど。そもそも鹿島くん自身は正面切って御三家と対立はしていないというのが何度も確認した事実。

 さっぱり、分からない。


「何難しい顔してんの、桜坂」


 いつの間にか悩みは顔に出ていたらしい。松隆くんの言葉で我に返り、ふるふると首を横に振る。桐椰くんはよしりんさんと月影くんと喋っているのでこちらを見ない。松隆くんの視線が一瞬だけ桐椰くんを見たせいで、やっぱり勘付かれていたのだと思い知らされる。松隆くんの前は隠し事ができなくて苦手だ。せめてもの救いは桐椰くんの目の前で問い詰めるなんてとんでもなく空気の読めない人ではないということだけだ。……そんなの人として当たり前か。やっぱりタチが悪いことはどうしても否定できない。

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