第二幕、御三家の嘲笑
 月影くんの誕生日お祝いのケーキを食べ終えて暫くすれば二十二時を回っていて、移動して疲れたこともあって段々と会話のテンポもゆっくりになっていた。朝型の桐椰くんが欠伸をしたところで、よしりんさんが立ち上がる。


「じゃ、そろそろ子供は寝る時間ね。歯磨きして寝なさいよ」

「よしりんさんは寝ないんですか?」

「アタシは大人だからまだ寝なくていいの。ほら夜更かしはお肌の敵よ!」


 十年経ったら自然に夜更かしするようになるのだろうか。そんなことを言うとまた可愛げがないと怒られそうなのでやめておいた。松隆くん、桐椰くん、月影くん、私の順に洗面台で歯磨きを済ませれば、松隆くんと桐椰くんは二人で部屋に戻ってしまっていて、とてもじゃないけれど桐椰くんと話なんてできない。下手したら旅行が終わるまでこの関係のままになってしまうかもしれない。

 二階に上がると、桐椰くん達の部屋の扉は閉まっていた。桐椰くんと松隆くんが相部屋、月影くんとよしりんさんが相部屋、私が一人部屋を貰っている。部屋の中はホテルの一室みたいになっていて、バストイレがなくゆったりとスペースがある分、下手なビジネスホテルの一室よりも広い。因みに月影くんとよしりんさんの部屋が一番広いらしく、グランドピアノがあるとまでは聞いた。一体誰が使うのやら、そもそも誰が来ることを想定しているのやら。松隆くんって本当にお金持ちのお坊ちゃまなんだなぁ、と、バルコニーへの掃き出し窓を通して部屋の中から海を眺めながら改めて思う。海に面した南向きの一戸建てが別荘だという。部屋の中は惜しげもなくかけられた冷房で快適に保たれている。その家を子供の遊びにぽんと渡してしまえるほどのお金持ち。そんな家庭は、どんな家庭だろう。

『生まれたときから松隆の名前があるのはやっぱり重いわよぉ』

 私と松隆くんを似ていると思う理由がそんなところにあると思うのは烏滸(おこ)がましいにもほどがあるけれど、きっと私と桐椰くんが理解(わか)り合えなくて、私と松隆くんが互いを理解しやすい理由はそこにある。


「……取り敢えず、二時間くらいは寝ようかな」


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