第二幕、御三家の嘲笑
 隣の部屋からは松隆くんと桐椰くんが何か話しているのは聞こえるけれど、何を話しているのかまでは聞こえなかった。聞こえたところで何がどうというわけでもないけれど……、少なくとも松隆くんと桐椰くんのセットは私にとっては最悪だ。窓に手をあてて、ほう、と溜息を吐いた。



 数時間後、目を開ける。反射的にスマホに手を伸ばして確認した時刻は午前一時。思った以上にはちゃんと寝たらしい。背伸びをして窓を開けると波の音が聞こえた。明日もいい天気らしくて、夜空の星がたくさん光っている。まさに満天の星。


「……外、出てもいいかな」


 あぁでも、家の鍵の場所が分からないな……。寝ているのが男の人ばかりで現金もない別荘とはいえ、流石に鍵もかけずに家を出るのは(はばか)られる。諦めてバルコニーに出たけれど、好立地なので浜辺に出るよりもいい光景が見れた気分にはなった。


「……綺麗」


 夜空を堪能するためか、海岸沿いの道に街灯は最小限、家だって松隆家の別荘以外にはホテルが点々とあるだけで、遠くにある灯台以外に人口の光はない。夜空は黒というよりも深い藍色。車なんて存在しないんじゃないかと勘違いしてしまうほど静まり返った夜に、波の音だけが聞こえている。一言で表してしまえば、穏やかな場所だ。手すりに凭れて、ぼんやりとその景色を眺める。大学生になったらこんなところに住みたい。県内に大学はあるだろうから、そこに通って、日がな一日この海を眺めて過ごしたい……。

 不意に、カラカラと掃き出し窓が開く音がした。顔を向けると私のすぐ隣の部屋の窓が開いている、ということは桐椰くんか松隆くんだ。桐椰くんは寝つきが良さそうだから松隆くんかな……。なんて根拠なんてないに等しい予想を立てていたら、はずれてしまった。


「……おはよ、桐椰くん」

「……おはようなんて時間じゃねーだろ」


 桐椰くんは欠伸をする。いつもふわふわの金髪は、月明かりのお陰できらきらしていた。ついでに寝ていたせいでぺしゃんこだ。桐椰くんは窓を閉めてしまう。どうやら戻るつもりはないらしい。


「桐椰くん、途中で目が覚めたりしない人だと思ってた」

「普段はしねーよ。今日は車の中で寝過ぎただけ」


 あぁ、確かによく寝てたな……。桐椰くんは私の隣に立って、同じように手すりに凭れる。


「……ねぇ桐椰くん」

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