第二幕、御三家の嘲笑
文化祭で桐椰くんに怒られたっけ、一体いくつ嘘を吐けば済むんだって。付き合いが長くなればなるほど嘘は増えていくんだけれど、最後に全部バレちゃったら桐椰くんはどれだけ怒るんだろう。きっと怒らないで哀しそうな顔をするんだろうな。だからバレないように頑張らなきゃいけないな。
そんな決意を新たにする私の内心を知ってか知らずか、桐椰君は溜息を吐く。
「……お前、本当に分かんねーな」
「そんなことないよ」
「幕張が好きなのに菊池と付き合ってたってのも分からねーし」
「桐椰くんが一途なだけだよ」
「そのくせ菊池のことやたら大事にするし」
「だって友達だもん」
「お前にとって友達と恋人の境目ってなんだよ」
「分かんない。そういうのは恋愛偏差値高そうな桐椰くんが教えてくださいよ」
茶化しながら、声が上擦った。
「未だに初恋の人忘れられないなんて言うんだから。疑いようもないくらい明確なその感情の中身を教えてほしいです」
これは、松隆くんと共犯になって敷いている最低な布石だ。桐椰くんは初恋の人をまだ探してる、そう公言しておけば、初恋の相手以外を好きになりましたなんて桐椰くんは言えなくなる。そうすることで、松隆くんは、桐椰くんを競合関係から排除しようとした。私の自意識過剰な推測かと思えば、松隆くんはご名答と笑ってみせたのだから、本当に松隆くんは怖い。
その松隆くんの言葉に、私は乗っかることにした。乗っかってしまえば、桐椰くんはもう私への感情なんて口に出せない。それでいい。最低かもしれないけれど、応えるつもりのない相手の感情を振り回すのとどっちがいいかって話だ。
隣にいる桐椰くんは沈黙する。深夜とはいえ、あまりに突っ込み過ぎただろうか。でもこの話題を口にしておかないと、夕方のようなことをまた繰り返してしまう。それだけは避けたい。
だって私は桐椰くんに嫌われたくない。
「桐椰くん? 揶揄い過ぎた? ごめんね?」
だから飄々(ひょうひょう)とその顔を覗き込んで、嫌われるか嫌われないかのギリギリを攻めた。反応のパターンはせいぜい二つだ、顔を赤くして視線を泳がせるか、同じく顔を赤くして怒るか。
それなのに、波の音に混ざって、桐椰くんのリップ音が珍しく静かに響いた。
「その初恋の相手がお前だって言ったら、どうすんの?」
そんな決意を新たにする私の内心を知ってか知らずか、桐椰君は溜息を吐く。
「……お前、本当に分かんねーな」
「そんなことないよ」
「幕張が好きなのに菊池と付き合ってたってのも分からねーし」
「桐椰くんが一途なだけだよ」
「そのくせ菊池のことやたら大事にするし」
「だって友達だもん」
「お前にとって友達と恋人の境目ってなんだよ」
「分かんない。そういうのは恋愛偏差値高そうな桐椰くんが教えてくださいよ」
茶化しながら、声が上擦った。
「未だに初恋の人忘れられないなんて言うんだから。疑いようもないくらい明確なその感情の中身を教えてほしいです」
これは、松隆くんと共犯になって敷いている最低な布石だ。桐椰くんは初恋の人をまだ探してる、そう公言しておけば、初恋の相手以外を好きになりましたなんて桐椰くんは言えなくなる。そうすることで、松隆くんは、桐椰くんを競合関係から排除しようとした。私の自意識過剰な推測かと思えば、松隆くんはご名答と笑ってみせたのだから、本当に松隆くんは怖い。
その松隆くんの言葉に、私は乗っかることにした。乗っかってしまえば、桐椰くんはもう私への感情なんて口に出せない。それでいい。最低かもしれないけれど、応えるつもりのない相手の感情を振り回すのとどっちがいいかって話だ。
隣にいる桐椰くんは沈黙する。深夜とはいえ、あまりに突っ込み過ぎただろうか。でもこの話題を口にしておかないと、夕方のようなことをまた繰り返してしまう。それだけは避けたい。
だって私は桐椰くんに嫌われたくない。
「桐椰くん? 揶揄い過ぎた? ごめんね?」
だから飄々(ひょうひょう)とその顔を覗き込んで、嫌われるか嫌われないかのギリギリを攻めた。反応のパターンはせいぜい二つだ、顔を赤くして視線を泳がせるか、同じく顔を赤くして怒るか。
それなのに、波の音に混ざって、桐椰くんのリップ音が珍しく静かに響いた。
「その初恋の相手がお前だって言ったら、どうすんの?」