第二幕、御三家の嘲笑
「そろそろいい?」


 二人して顔を向ければ、松隆くんが柱に寄りかかって立っていた。いつの間に部屋から出て来てたんだ、なんて疑問は、どう見ても寝起きじゃない顔と、どう考えても随分前から私達の会話を聞いていたとしか思えないその台詞のせいで呑み込んでしまった。


「……えっと、松隆くん、そろそろ、とは……」

「そろそろ話終わってもらっていいかなって言ってるんだけど」


 あまりに偉そうな物言いに今までの緊張感が全部吹っ飛んだ。寝巻用のTシャツとハーフパンツのせいでいつもより華奢さが目立つくせにその全身から苛立ちが伝わって来る。桐椰くんが舌打ちした。


「お前いま関係ないから黙ってろよ」

「関係ないわけないだろ。鹿島の話に始まり、お前ずっと桜坂に初恋云々の話してたんだから」


 最初から聞いてたんですかリーダー! 夕方に月影くんとの会話を桐椰くんに聞かれたのと状況は同じだ。それなのに何で聞いてたのが桐椰くんだと申し訳なくなるのに松隆くん相手だと盗み聞きされたような気持ちになってしまうんだろう。その答えも分からないまま唖然としていた間に桐椰くんの手は私の手から離れた。松隆くんは最初から不機嫌だし、桐椰くんだって段々不機嫌になっているのは目に見えて分かる。


「お前最近よくその話題に口出すよな」

「お前が引き摺ってるからな」

「それと口出すことは別だろ」

「こんな時間に起き出してまで話し始めてるなら口も出すだろ」

「好きで起きたんじゃねーよ目が覚めたんだ」

「話してるのはお前が好きで話してたんだろ」


 なんだか緊張感のない喧嘩が始まってしまった……。御三家の中で感情の起伏が激しいのは桐椰くんくらいだけどその桐椰くんだって面倒見が良くてお兄さん気質だし、月影くんも松隆くんも同級生の男子より落ち着いてるし、御三家の平均精神年齢は比較的高いと勝手に思っていたし多分その認識は正しかった。それなのに、その御三家の中で喧嘩が始まるとこの有様……。下手に一緒にいる幼馴染同士の喧嘩って、もしかして、思っている以上にくだらない……?

「あ……あの、二人共……、もう遅いわけですし、取り敢えず今日のところは寝て……」

「今お前関係ない」


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