第二幕、御三家の嘲笑
 桐椰くんまで! なんなら初恋の相手疑惑のある私が一番関係ありそうな気がするんですけど、なんて自意識過剰なことはいえず、呆然と立ち尽くすしかない。仲裁に入ろうとして伸ばした手がやり場を失ってただ虚しく彷徨っている。


「大体なんでそんな機嫌悪そうなんだよ。寝起きで不機嫌だってんなら寝てろよ」

「だったらこんな時間に外で話すなって言ってるんだよ」

「窓閉めただろ」

「聞こえるんだよ」

「神経質なんだよお前が」


 くだらない! ものすごくくだらない! 松隆くんが不機嫌な理由は多分、桐椰くんの初恋の人が実は私でした、お陰でその策略はパァです、なんて松隆くんの高そうなプライドをへし折りそうな状況にあるとは思う。思うのだけれど……、いかんせん二人の口論が子供じみているせいで本当に私は無関係のような気がしてきた。実際蚊帳の外に置かれているわけだし。


「……ねぇ桐椰くん、松隆くん」

「口挟むなら訊いてもいい、桜坂」


 まるで口を挟むなと言わんばかりの言い方! 急に現れていつも以上に偉そうなリーダーとか誰も求めてないんですけど! そうツッコミを入れざるを得ないはずなのに、言葉を失ってしまわんばかりの威圧的な目のせいでそんなツッコミは入れられない。


「結局、桜坂は遼の初恋の相手なわけ?」


 ……ついさっきまで私と桐椰くんの中で一番デリケートな問題になりかけていたことを、まさかの第三者が直球で訊いてきた。私と桐椰くんの会話の一部始終をわざわざ聞いていたってことはこの状況を利用しない気は松隆くんにはないはずだ。有耶無耶になりかけていた初恋の相手疑惑を今ここで私がはっきりと否定すれば、多分松隆くんは話を切り上げさせる。そうすれば桐椰くんも暫くは同じ話題を私に確認することはない……。布石が使えないとなれば次の作戦に切り替えようってことですかリーダー。幼馴染兼親友であっても恋敵(ライバル)(暫定)となればとことん蹴落とすつもりなんですねリーダー……。


「……違うと思います」


 ただ、桐椰くんの初恋の相手ではありたくないのは私も同じだ。だから今まで通り松隆くんには乗るしかない。


「じゃこの話終わりでいいね」


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