第二幕、御三家の嘲笑
「夏休みに行く避暑地のパンフ。桜坂も行くだろ?」

「え、なんですかそのさも当然のような聞き方は」


 何も聞かされていないのに私が行くことが決まっている……。松隆くんは親切なんじゃなくて強引なのがたまたま親切な方向に転がっているだけのような気がしてきた。差し出されたページには海辺が映っていた。


「何これ?」

「海」

「それは分かるけど」


 ニヤッと松隆くんが笑った。文化祭が終わって以来、松隆くんの腹黒さはよく表に出て来る。


「うちの別荘があるんだよ、この近くに」

「うへぇ、さすが松隆グループ」


 避暑地に別荘の一つや二つ、持っていないわけがないということか。覗き込んだ雑誌にある写真はいかにもなリゾート地だ。


「……まさかプライベートビーチまで持ってないよね?」

「まさか、持ってないわけないよね」

「……お金持ち怖い」


 ああ、私には分からない話だ……。桐椰くんは「松隆のおじさん、人混み嫌いだもんな」なんて的外れなコメントをしている。カツアゲされたときに庶民だって言ってたくせに。


「まー、狭いもんだけどね。せいぜい家族で使う程度だと思ったみたいだから。近くのホテルで宿とるほうがいいかもしれないけど、ホテル嫌いなんだよな」

「お前場所変わると寝れないよな」

「二、三日寝ればちゃんと慣れるんだよ」

「子供みたいだね松隆くん」

「未成年だからね」

「さっきから揚げ足ばっかりとって酷くない?」

「ま、そういうわけだから。下手に夏休みに予定入れないでね」


 にっこり王子様みたいな笑顔を残してくれるも、私は行くなんて一言も言ってない。欠片もときめかないイケメンスマイルだ。白い目を向けるけれど、松隆くんは知らんぷり。


「……それにしても、凄い人気だねぇ」

「ん?」

「御三家の人気。みんなもう生徒会怖くないのかな?」


 きょろ、と見回す廊下には、遠巻きにきゃあきゃあ騒ぐ女子ばかり。三人は意にも介してないけれど、そんなクールなところがまたいいとか言われてるのを私は知っている。お高く留まっていてなによりだ。


「さあ……。それは俺達の知ったことじゃないけど」

「文化祭で多少助けてやったのが効いたんじゃね。コイツ以外でも助けてもらえるだろって思ってんだろ」

「やっぱ助けなきゃよかったかなあ」

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