第二幕、御三家の嘲笑
 そう一言、呟くように言い残して乱暴に部屋の中へ消えてしまった。そのまま扉の音まで聞こえたから、もしかしたら松隆くんと同じ部屋にいるのは気まずくて一階に降りたのかもしれない。松隆くんは目で追うことすらせず、それどころか私に視線を寄越す。


「言い過ぎだと思ってる?」

「……思ってる」


 自覚あるじゃんこの人。私はどちらの味方でもないし、どちらの味方にもなってはいけないけれど、そこまでして桐椰くんを虐めなくてもいいのにとは思ってしまう。


「……それに、私は言ったよ。松隆くんと付き合えないって。告白のこと言うならそれまで言えばいいじゃん」

「付き合えないと言われて諦めるわけじゃないとは言ったよ。それにわざわざそこまでしてやらなきゃいけない理由はない」

「……仲良しなのに」

「だから土俵に上がって来いって言ってるんだよ。初恋がどうとか言ってないで、今のお前はどうなんだってね」


 半ば非難の気持ちまで込めそうになっていたのに、その言葉を聞いてきょとんとしてしまった。松隆くんは忌々し気に舌打ちする。


「馬鹿なんだよアイツは。お人好し過ぎるし優しすぎる。さっきの質問だって、嘘でもなんでもいいから取り敢えず答えればよかったんだ、桜坂が好きなんだってね。それを──自分の中で答えが出てないからか俺に気を遣ったからかは知らないけど、答えないとか。そんなの俺と張り合うのに不利になるってことくらい分かってるだろ。誠実であろうとしてその場だけ凌ぐなんてことさえできない馬鹿正直だから損するんだ」


 ──松隆くんが桐椰くんの初恋の人のことを繰り返し口にするのは、桐椰くんを蹴落とすためだと思ってた。


「……なに、その顔。俺が何がなんでも遼だけは蹴落としておくと思った? アイツが悩んでるの知ってるんだからそこまでしないよ」


 チッ、と松隆くんはナチュラルな舌打ちを挟んで腕を解く。


「ま、桜坂は抜け目ないし。これが桜坂の好感度を上げるための嘘だって可能性もなきにしもあらずくらいには思ってるんだろうけど」

「……松隆くんは天邪鬼(あまのじゃく)だよね」

「少なくとも俺が桜坂を欲しいのは嘘じゃない」


 ギクッ、とまるで殺害予告でもされたかのように体が硬直した。部屋に戻ろうとする松隆くんの表情に相変わらず笑顔はない。


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