第二幕、御三家の嘲笑
「それがどうやらここにいる桜坂なのではないかという疑惑を抱いているようですよ」
「疑惑ってなによ。……あぁ、まだ確定はしてないってわけ」
「それどころか私は桐椰くんに見覚えは……ないし……」
中途半端に記憶を探れてしまったせいで濁してしまった。その濁し方を聞いたよしりんさんは「なによ、ちょっとはあるの?」なんて食いつくけれど、隣の月影くんはぴんときたように表情を変えた。流石月影くん、頭の回転が速くてとても助かる。
「いえ、だって私には覚えはないんですけど、ほら、桐椰くんに覚えがあるみたいなことを言われたら否定はできないですし……」
「悪魔の証明だな」
「そうそれですよツッキー!」
「だからアンタ達小難しい言葉遣って二人で納得するのやめなさいよ! 年下にそんなことされたら腹立つのよ!」
「簡単に言えば、遼が彼女に会ったことがあると証明することはできても、彼女のほうから遼に会ったことはないことは証明できないわけですよ」
「なんッにも簡単に説明できてないわよ。アタシの頭が悪すぎるのかしら?」
「今のは大分分かりやすく説明しました」
「しばき倒されたいようね貴方」
月影くんの助け舟には心底感謝するものの、いかにややこしい状況かが月影くんに伝わっただけとなってしまった。おそらくそのせいで月影くんの眉間の皺が深い。何も解決していないというのに、よしりんさんは「ま、なるようになるでしょ」と立ち上がってしまう。
「えぇ……あの、どうにかする方法をぜひ一緒に……」
「だってあの二人が女絡みで喧嘩するのなんて初めてだもの。どうすればいいのかなんて知らないわよぉ」
「ツッキー!」
「知らん。あの二人の女の趣味は被らないものだと思っていた」
「今更趣味云々言ったって解決の足がかりにもならないって分かってて言うのやめてください。もしかして月影くんは愛だの恋だのくだらないと思ってるタイプですか。ゲーテに呪われますよ」
「性に合わないと思っているだけでウェルテルを笑うつもりは毛頭ない」
「アンタ達、次アタシに分からない話したらオネェさんが優しく寝技教えてあげるから覚悟しなさいよ。特に駿ちゃん」
多分下手な脅し文句よりも数倍恐ろしい宣言をし、よしりんさんは食器を下げる。