第二幕、御三家の嘲笑
どうやらお皿洗いは――月影くんに大変な迷惑をかけていることを考え――私に任されたとみていいだろう。よしりんさんは着替えるために部屋に戻り、昨日の夕方のように月影くんと私が取り残される。
「……ツッキー」
「そもそもあの二人の喧嘩を諌めるのは骨が折れる。放っておくのが一番いい」
「旅行中ずっと気まずくても?」
「幸いにも今日は海に行く予定だからな。偶然を装って単独行動ができる」
「さり気無く見捨てる宣言やめて!」
「君が迷子になってくれるのでも構わないが」
「時には婉曲的な物言いのほうが傷つくということを知りませんか? 邪魔なら邪魔だって言ってくださいよ」
邪魔――……。自分で口にしておきながら、ふと考える。邪魔、か。
「……ねぇ月影くん」
「何だ。これ以上何を訊ねられても打開策は思いつかないとは断っておくぞ」
「……私、御三家から離れたほうがいい?」
月影くんは黙った。なんなら煩わしそうな表情は引っ込み、いつもの無表情に戻った。隣に座ったままじっとその横顔から思考を窺おうとしても読むことはできない。ややあってその口は開くけれど、月影くんにしては珍しく、その声を発するギリギリまで言葉を選ぼうとしているようだった。
「……それは、俺が判断することではない」
そして珍しく、逃げの一手を打つ。
「……参考までにご意見を聞いておこうと思いまして」
「参考に留まらず言い訳にされたくはないので何も言わずにおく。だが色恋沙汰で仲間割れじみたことをする必要はあるまい」
「……理由はそれだけじゃないよ」
「幕張のことか? それについても、俺にとってはそう懸念すべきことではないと思うのだがな」
別に、二人とも幕張匠を知っているだけで恨んでいるなんて話は聞いたことがないから。月影くんはそう言うけれど、文化祭の前、桐椰くんはその名前に妙な食いつきを見せた。そのことを考えると、その二人が話題にしたことがないから何もないなんて判断は尚早な気もする。……あぁでも、桐椰くんの初恋の人が私だとしたら、桐椰くんは私が幕張匠だって勘付いてしまったことになるのか。