第二幕、御三家の嘲笑
 失礼なことを言う人だ。ただその顔と喋り方に悪意がないので反応しづらい。


「……そうなんじゃないかな」

「ふーん。でも大変だねー。なんか、御三家好きって女子多いじゃん。桜坂さん大変そー、みたいな?」

「……その点はギブアンドテイクってやつかな」

「なるほどー。確かに、あたしも生徒会やってるの、図書室に漫画置きたいからだし、そういうことだよねー」

「え?」


 きょとんとすると、「うち、親が厳しくってさー」と全然困ってなさそうに薄野さんは笑った。


「家で漫画読めないんだよねー。だったら、生徒会役員になって図書室に漫画置こっかなー、的な? そのために図書役員やってるんだよねー」

「あ、あー……生徒会役員なんだ」

「そーだよ。じゃなきゃ桜坂さんに話しかけるなんてしないんじゃないかなー。あたしはどーでもいーけど、御三家と生徒会の仲の悪さはみーんな知ってるし、下手に御三家派だなんて思われたくないしねー」


 きっと分かってるんだろーけど、と付け加えられたけれど、その通りだ。下手に私に関わったら生徒会役員から睨まれるし、私と仲良くしても御三家の仲間になれないことは笛吹さん事件で明らかだ。


「だからー、あたしは全然関係ないから、どーでもいーってわけ。指定役員だから、ヒエラルキーは一番上だもん」


 なるほど……。だから、薄野さんは私に善意も悪意も向けていない、ただ隣のクラスの転校生としか思っていないのか。有希恵のゴールが近いこともあって、薄野さんからプールへと視線を戻す。それでも薄野さんは「桜坂さんって、あれでしょ、」と背後で喋り続ける。


「なんか、運が悪かったんでしょ――?」

「運が悪い?」

「御三家に拾ってもらったのはー、不幸中の幸いってやつ? だってー、別に美人でもないのに生徒会に目つけられるっていうのは、なんか不幸だよねー。あ、桜坂さん、そこそこキレーだと思うよ? BCCとか驚いたし」

「別に無理して褒めなくても……」


 有希恵の手が壁に触れる直前だったので、声には出さず、十人並みな顔だとは心得ています、と返事をした。ストップウォッチを止めてからややあって顔を上げた有希恵にタイムを伝えると。ありがとうも何も言わずに宍戸先生に報せに行ってしまった。やれやれ。


「だってほらー、梅宮さんに売られちゃったんでしょー。不幸じゃーん」
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