第二幕、御三家の嘲笑
「……二人にバレたときにどう思われるかっていうのもあるけど、そもそも御三家に迷惑かかるんじゃないかなって」
「幕張匠を抱え込むことがどれだけの面倒事を呼ぶのかは知らないが、それは例えば先日の菊池のようなことか?」
「そういうこと、ですよ」
守ってあげるよ、と松隆くんは言ってくれた。御三家と私が結んだ契約はまだ残っているからと。――いや、それどころか、松隆くんは契約を〝約束〟だと言ってくれた。例によって松隆くんが言葉選びを誤るはずがないと考えれば、もう私と御三家の関係はただの〝依存〟だ。
私は本当に、御三家にとってはただの厄介事だ。それだというのに、月影くんはこんなときだけ辛辣な言葉をくれない。ただ眼鏡を押し上げ、腕を組んで、考え込んでみせるだけだ。
「……少し冷静に考えろ。菊池の件に関しては鹿島曰く誰かが裏で糸を引いていたということだ。菊池の件は幕張匠を抱え込むことの面倒事の一例にはなるが、抱え込めば必ず生じるものではない」
「月影くんこそ、冷静に考えようよ。誰かが裏で手を回して陥れようと思えば使える弱味が私にはあるんだよ」
『確かに、君が幕張匠だって分かってるってことはいつでも菊池を殺せるに等しいし? いざとなれば、それこそ君も自分の体くらい差し出すのかな?』
詰んでいる。鹿島くんの思惑がどこにあるかはさておき、八方塞だ。はぁ、と溜息と共に立ち上がり、月影くんの前に置かれているお皿も手に取って、片付ける準備をする。月影くんは軽く目礼して――再び口を開いた。
「……君に会ったときから、君に訊ねたいことがあった」
「……どうしたの急に」
私が幕張匠だと知ったときではないというのは、些か奇妙だ。振り向けば、その疑問を私の表情から読み取ったのか、「無論、今だからこそ一層疑問に思っているというのもあるが」と前置きされる。
「生徒会役員に虐められても君は平然と登校していたとは聞いている。それだけは未だ根性で片付けてもいい。だが、幕張匠である君が、遠い町に引っ越すこともなく、幕張匠のいたこの場所に留まる危険を冒しているのはなぜだ?」
……ご尤もな疑問だ。別に引っ越せと言っているわけではない、と付け加えられたけれど、この文脈で月影くんにそんな意図がないのは分かっている。そしてその選択肢を考えたことがないわけではなくて、それでも遠い町の高校に通うことをしていないのは――。
「……ただの私の我儘だよ」
〝言いたくない〟と伝えることしかできなかった。月影くんは特に不快に感じた様子もなく、「……そうか」とだけ頷いた。