第二幕、御三家の嘲笑
「そしてそこの駿ちゃん。何を取り出してるのかしら?」
「本ですが」
「アンタ達やる気あんの本当に!」
そして、私の背後では月影くんがちゃっかりコンパクトなビーチチェアを持って来て、上手くパラソルの日蔭に入る位置に設置して読書を始めようとしている。一応黒い海パンを履いてはいるけれど、その上には私と同じくTシャツを着ている。ただ眼鏡はかけていない。
「でもツッキー眼鏡じゃないじゃん。コンタクトでしょ? 海入りたいんじゃないの?」
「砂浜でも落とせば惨事だろう」
「なるほど」
「駿ちゃん、少しは総ちゃんと遼ちゃんを見習って女に引っかけられてきなさいよ」
「僕は面倒事は嫌いなので」
ぐいっとよしりんさんが指差すので、そちらの方向を探す。ついさっきまでは一緒にいたので、松隆くんの恰好――グリーンからブラックにグラデーションがかって、木陰みたいな模様の入った海パンを履いた人――を探せば見つかった。横顔もちらりと見えて、女の人二人に話しかけられて物凄く鬱陶しそうだ。そして真逆の方向を見れば、濃紺の海パンのせいで数多の海水浴客に埋没しそうになっているのに金髪とパーカーといういつもの組み合わせのお陰で見つけやすい桐椰くんがいる。女の人一人に腕を組まれて狼狽えている。べたべた体を触っている女の人は年上っぽいし、なんだか桐椰くんが不憫だ。
「喧嘩してるせいで真逆方向に歩くとか何やってんですかね」
「全くだ。遼は一人ではあしらえないだろうから助けてやれ」
「いやそこは月影くんが助けましょうよ」
「ミイラ取りがミイラになるだろう」
「自分の顔がいい自覚はあるんですね」
「男を漁る女の前に別の男が現れても何の牽制にもならないという話をしているんだ」
「だからTシャツ脱いでアナタが行くのよ」
「やだ! 脱がないって言ってるじゃないですか!」
隙をつかれてガッ、と胸座を掴まれてしまい、慌ててよしりんさんの手首を掴んでいやいやと首を横に振る。なんならよしりんさんの顔は楽しそうにニヤニヤ笑っていた。