第二幕、御三家の嘲笑



「よしりんさん……、あんまり桐椰くん煽らないでくださいよ」

「言ったでしょ、なるようになるって。何も起こらないより多少つついたほうがいいわ」

「それ全然なるようになるとは違いますよ」


 この旅行中だけで何度深い溜息を吐く羽目になっただろう。せめてこれ以上ゴチャゴチャしないように上に着ておこう、とTシャツを手に掴んだのに、やっぱり目ざとく気付いたよしりんさんに奪われた。

 結局、月影くんは桐椰くんに誘われるがままビーチバレーに参戦することになり、見知らぬ人達に混ざって試合を観戦することになった。桐椰くんと月影くんは初っ端から出るらしく、コート内でウォーミングアップしながら何か話している。私はよしりんさんに連れられるがまま、コート周辺に(たむろ)する観戦組に混ざる。コートの前にいくつかパラソルが立っていたので日陰はばっちり確保できた。


「よしりんさん、結局出ないんですか?」

「あら、出るわよ。アタシ、スポーツは見るよりやる派だし」

「え? でも松隆くんといつ……」

「おい吉野」


 ちょこんとよしりんさんの隣に座っていると、ザリッと砂を踏みしめる音と共に不機嫌そうな声が聞こえた。私達以外の観戦者 (主に女性)のちょっとだけざわめく声も聞こえる。流石どこにいっても人気のある顔の松隆くんは声の通り不機嫌そうで、私の隣に座り込んだ。時を同じくして試合開始の笛は鳴る。ただ、桐椰くん達を応援しようとしても松隆くんへの警戒が怠れない。


「バレー出るとか聞いてないんだけど」

「だって暇でしょアナタ」

「だからって『出るからヨロシク』なんて書き置きで済むと思うなよ」


 どうやらよしりんさんはメモだけ残してきたようだ。荷物は持ってきたとはいえ、パラソルやビーチチェアがそのままというのは不用心な気もするけれど、そう離れてないし、大丈夫だろう。


「でも現に済んでるじゃないの」

「組む相手くらい選ばせろよ」

「遼ちゃんとが良かったの?」

「コートの内側に敵がいるなんてお断りだね」

「仲直りすればいいのに……」


 思わず呟くと睨まれた。ヒェッとよしりんさんの方へ避難すると、松隆くんの顔がひきつる。ただすぐにいつもの笑顔が貼りついた。

< 317 / 438 >

この作品をシェア

pagetop