第二幕、御三家の嘲笑
「桜坂出ないの、バレー」
「桐椰くんが女子はいないっていうから……」
「ふーん」
そして松隆くんは意味深な相槌を打つ。この二人の喧嘩、最悪だな……。いや、そもそも御三家の中で喧嘩するといったらこの二人の組み合わせ以外ないのか……。
そうこうしている内に、飛び入り参加の桐椰くん達が圧勝し、さして疲れた様子もない二人が帰ってくる。とはいえ、息切れさえしてないのは桐椰くんだけで、月影くんは少し疲れた様子だった。
「総、水ないか」
「持ってきたよ」
「ありがとう」
「総、邪魔」
「お前が別のところ座れば?」
桐椰くんと松隆くんが意地になって喧嘩を売って買っている。もうやめてください本当に。
「……あの、私ここ立つから……桐椰くんここ座れば……」
「桜坂は立たなくていい」
「だからお前が立てって言ってんだろ」
「俺の後ろも空いてるけど?」
「私立つから! 私後ろに座るから!」
松隆くんと桐椰くんと隣同士に座らせるのもマズイ気はするけれど、私がいるよりはマシに決まってる。慌てて人一人分後ろに下がって座り込めば、桐椰くんは舌打ちして私が座っていたところに座り込んだ。
「で、お前の試合いつなの」
「知らないよ、吉野が勝手に出るって言いだしたんだから」
「次の次よ。ちゃんと準備体操しなさいよ」
「俺、吉野みたいに年じゃないから」
「なに、寝技で準備体操したいの?」
「遼とやっといて」
「なんで試合終わった後にするんだよ馬鹿じゃねーの」
「全然運動になってなさそうじゃん」
「女引っかけて座ってただけのお前よりマシだ」
「引っかけてないし向こうが勝手に寄ってきただけだし。お前だってこれ出てんの女に誘われたからだろ」
「相手が男でも出てたっての」
「どーだか。つか女に触られたくらいで顔赤くするのどうにかしろよ。だから遊ばれんだよ」
「好きで赤くなるんじゃねーよ悪かったな」
なんでこの二人本気で喧嘩してるときでもいつもの子供みたいな口喧嘩するんだろう……。なんだかこの二人の喧嘩なら理由が何であっても放っておいていい気がしてきた。どうにかしなきゃいけないなんて私の取越し苦労だったのかもしれない。寧ろ心配していた私に謝ってよ……。二人はそのままの調子で口喧嘩を続け、松隆くんが試合に行くときになって漸く黙った。月影くんは終始呆れた目を向け続けていた。