第二幕、御三家の嘲笑



「……男寄って来るから」


 出た、保護者。桐椰くんの心配性にはもう慣れている。


「寄って来ないでしょ、別に」

「寄ってくるかもしれないだろ」

「じゃあどっか行くときはツッキー連れていくもん」

「それならいいけど」

「俺を巻き込むな」


 ――こんな遣り取りをしていてなんとなく思うのは、別に桐椰くんが私に向けてるのは恋愛感情なんかじゃないんじゃないか、ってことだ。お父さんがいなくて、弟がいる桐椰くんは何かと人の面倒を見る癖みたいなものがある。桐椰くんが私に向けている言動も感情も、その癖の延長だ。ついでに女の子に慣れてないから、その癖の延長だと桐椰くん自身自覚してないだけだ。きっとその勘違いは松隆くんと月影くんもしていて、二人が語る桐椰くんの感情も、多分間違ってるんじゃないかなと思う。恋愛感情を持つことと女の子を可愛いと思うことは別のことだって雅も言ってた。

 あぁ、そうか――。不意に気付いてしまった。松隆くんと桐椰くんの喧嘩はくだらないけど、それどころか、そもそもその原因は勘違いだ。私を含めて、周りが桐椰くんの感情を決めつけすぎてしまっただけだ。実際、桐椰くんは昨晩の松隆くんの問いには答えなかったわけだし。

 色々考えながら、試合を見ながら、一人で口を尖らせる。松隆くんとよしりんさんのペアは順調に点を取ってるし、ただでさえ熱中症を懸念して僅か十点先取の短い試合設定だ。二人の試合もまたすぐ終わるだろう。でも――よしりんさんの手前観戦でもいいですよとは言ったけれど――一人だけ仲間外れみたいで楽しくはない。


「……ツッキー、アイス食べたい」

「駄々っ子か君は。一人で行け」

「さっき連れて行くって話したばっかりじゃん!」

「君が一方的にな」


 どんなに仲良くなってもこの距離感崩さないつもりだな月影くん……。白い目で見つめるけれどその横顔がこちらを向く気配すらない。仲良し御三家の中にいても月影くんは単独行動が目立つし、粘ってもついて来てはくれないだろう。

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