第二幕、御三家の嘲笑
「おい悪かったって言ってるだろ」
「桐椰くんの元カノは美人だもんねー。あんなの見てたらそりゃー私は美人じゃないって日々実感しちゃうよねー」
「なんで蝶乃と比べるんだよ……。別に俺は蝶乃の顔のほうが好きとかそんなこと言ってねーし、美人かどうかなんて好みだし、どうでもいいだろ……」
「桐椰くんの好みの顔じゃなくてすいません」
「…………」
墓穴を掘った、と言いたげな沈黙が背後から漂ってくる。馬鹿だな、桐椰くんは。松隆くんならこんなの上手く躱せるし誤魔化せるのに。
「彼女できたら気をつけなよ、桐椰くん。女の子はそういうの嫌がるから。お兄さん見倣ったほうがいいよって遥くんも言ってたじゃん、彼女より美人な人いても彼女のこと一番可愛いって言ってあげなきゃ駄目なんだからねー」
「……お前だって俺と兄ちゃん比べてんじゃん」
兄ちゃん? あれ、桐椰くんって彼方のこと兄貴って呼ばないっけ……。そっか、よくある家庭内と外との区別か。外以外では兄ちゃんって言うのかも。それを怠るくらい、今は慌ててるってことかな。
「じゃあこれでおあいこだね。桐椰くんアイス食べる?」
「……いい」
「ついてこなくて良かったのに」
「……だから悪かったって言ってんだろ」
別に私も特別アイスが食べたかったわけではないんだけどな、と海の家のメニューを見上げながら一応悩む。いちご、メロン、チョコレート、パイン、バニラ……。どれが好きというわけでもなかったので、チョコレートにしておいた。桐椰くんは甘い物が好きだからチョコレートも好きだろう。……そう考えたところで、この調子だと桐椰くんにあげることはなさそうだけどな。
海の家からコートまで戻るときも桐椰くんは無言で後ろをついてくるだけだ。炎天下のせいで買ったそばから溶けはじめている。アイスなんて食べるのは久しぶりで、どこか懐かしい味がした。
「ねー、それ、どこで売ってんの?」
……不意に目の前に男二人が立ち塞がった。見上げる顔から判断するにおそらく二十代前半。でも年齢なんてどうでもいい。その手に缶ビールを持っているので、間違いなく酔っ払いだ。多分下手に関わると面倒臭い。す、と背後を指さす。