第二幕、御三家の嘲笑
「急迫不正」
「は?」
よしりんさんでも来てくれたらいいんだけどなぁ、と困っていると、桐椰くんの口から呪文のような言葉が出て来た。それに頓狂な声を発したのは相手の人だけじゃない。目をぱちくりさせていると、桐椰くんは面倒臭そうに続ける。
「アンタがコイツの腕掴もうとしたのがそれだって言ってんだよ。正当防衛の要件言ってほしいんだろ」
「は? お前何で、」
「童顔ってよく言われるけど、大学生だから、俺。専門は法律」
桐椰くんにしては珍しい、白々しい嘘。この人達のいう法学部が嘘か本当かはさておき、法学部を名乗る人相手にはったりをかませるということは桐椰くんにはその知識が少しでもある……? 正しい知識なのかどうか、私には分からないけれど、相手がたじろいでいる様子からすれば多分正しい知識なんだろう。
「残りも言ってやろうか? 余裕で正当防衛成立するけど」
「は……、いや、別にそんなの――」
そしてそのまま、相手の後頭部にバコンッと何かが勢いよく激突した。「痛ェッ」と今度こそ本気の悲鳴を上げ、赤茶色の髪の人が患部を押さえる。ポーン、と高らかに飛び、テンッ、と砂浜に落ちたのはバレーボールだ。デジャヴだ。
「何してんですか?」
ボールを放ったのは松隆くんだった。なんなら多分その目と同じ殺意がボールに込められていた。後かろからよしりんさんもやってくる。多分松隆くんだけじゃ相手にされないと思ったからだろう。あんまり大人数で騒ぎになると面倒だと思ったのか、相手二人は苦虫を噛み潰す。
「……なんでもねぇよ」
二人組の男の人達は舌打ちして立ち去った。松隆くんはボールを拾い上げる。