第二幕、御三家の嘲笑
「何してんの、遼」
「……アイツらが絡んできたんだよ」
「そんなの無視しろよ」
「はーいはい、そこまで。こんなとこで騒ぎ起こせないでしょ? 亜季ちゃんがいたから逃げにくいし」
二人の間で一層不穏な空気が醸成される前によしりんさんが手を叩いた。正論ではあるので、松隆くんは素直に口を閉じる。
「遼ちゃん、アナタの試合、次なんだから戻るわよ」
「あぁ」
「で、アナタはそのドロドロのアイスをどーにかしなさい」
「あ……」
いつの間にか、手に握っていたアイスは溶けてしまっていた。まだ一口二口しか食べてないのに、コーンを伝ったチョコレートが手を侵食している。溶け出したアイスを慌てて舐めるけれど、手だけはどうしようもない。洗うとしたらどこかな、なんて周囲を見回す間もなく、桐椰くんに手を引かれてコートへと歩く。よしりんさん達は私達がいざこざしているのを見つけて来てくれただけらしく、特に海の家の方面に向かうこともなく私達の数歩後ろをゆっくり歩いていた。
「……ねぇ桐椰くん」
「なんだよ」
桐椰くんは振り向かない。本当はそろそろ手を離してほしいと言いたかったのだけれど、コートに着くまでそうしてくれる気配はなさそうだ。一度口を開いた手前「なんでもない」なんて答えるのは意味深な気がして、丁度いい話題もあったから「なんで法律知ってるの?」と訊ねた。
「トラブったときに相手に言い包められないようにしとくためだよ」
「でもそんなのよく分からなくない?」
それこそさっきの人達が言ったみたいに、ネットで生半可な知識を得たところで言いくるめられるも何もよく分からないのでは……。首を傾げながら歩いていると、桐椰くんは「ん?」ときょとんとした顔で振り向いた。
「言ったことなかったっけ?」
「なにが?」
「俺、母親弁護士」
言われていることが一瞬頭の中に入って来なくて固まってしまった。なんだと……。