第二幕、御三家の嘲笑
「……聞いたことない」
「兄貴法学部だし」
「聞いたことない!」
彼方も法学部? 確かにわざわざ聞くことなんてしなかったけれど、似合わない。……いや、彼方は言動が軽いだけで中身はきちんとしてるから、似合わないわけじゃないのかな……。いやいや、取り敢えず今は彼方のことはおいといて。自分の中で情報を整理する。
「桐椰くんのお母さんが弁護士……」
「だからあんま家にいねーんだよ。忙しいし」
初耳ではあったけれど、そうなると納得することはいくつかあるかもしれない。そういえば法律を知ってるのは松隆くんだって同じだった。雅の件で助けてくれたときに松隆くんがぶつぶつ言ってる中にそれっぽいワードがいくつかあった。あれは多分桐椰くんの入れ知恵なんだろう。そして母子家庭で三人兄弟なのに、大阪で一人暮らしをする彼方と、花高に通う桐椰くん。桐椰くんは成績による授業料の減免措置は受けてないって言ってたし、その学費は家計を圧迫してもおかしくないはずだ。いや、花高のことだから成績以外にも家庭の事情次第で減免制度なんていくらでもあるのかもしれないけれど、少なくとも桐椰くんが〝庶民〟と名乗るに留まっているのは弁護士である母親の圧倒的な収入……?
それにしても――思わず額を押さえたくなってしまう――御三家の質の悪さが改めて分かった気がする。松隆グループ次男の松隆くん、松隆グループ代表取締役の主治医を務めるほどの医者の息子の月影くん、弁護士の息子の桐椰くん。親の力を使えば下手に小さな事件なら簡単に握りつぶせるだろう。御三家が親の七光りで威張り散らしたりその力を笠に着るような人達じゃなくて本当に良かった。
コートに戻ると、私が絡まれていても微動だにしませんでしたと言わんばかりの月影くんが「アイス一つ買うのに随分時間がかかるんだな」と嫌味までつけて迎えてくれた。ドロッと溶けたチョコレートアイスをその頭にひっくり返してやりたくなったけれどぐっと堪えた。桐椰くんの手は私の手から離れ、「試合あとどのくらい?」「二分といったところだな」と話し始める。漸く解放された手のお陰でアイスを持ち替えることができた。左手はアイスに混ざった砂糖でべったりと汚れている。