第二幕、御三家の嘲笑



 喋り過ぎてしまった。桐椰くんと蝶乃さんの話を松隆くんから聞いた時と同じ口の滑り方だ。あれは桐椰くんに対する八つ当たりだったし、だからこそ松隆くんにも諫められたけれど、よしりんさん相手だとどうなるかは分からない。また花の寿命云々って怒られるかな……、と恐々隣を見上げると、やっぱりよしりんさんは真顔だ。


「ねぇ、訊いていい?」

「すいません花の寿命は短いんですよね理解しましたすいませんでした」

「その話はもういいわ」


 何度言われても理解できないその脳味噌どうなってんのか訊きたいんだけど、とでも言われるのだとばかり思っていたせいで面食らう。遥か三十センチ上の目は探るように私を見た。


「死にたい?」


 花の寿命云々の話題でないとすれば、よりしんさんの気に障るようなことをしたわけでもなく、私の手に自傷の痕があるわけでもなく、私がそう口にしたわけでもなく。


「そうですね。あと六年後に」


 だから質問の意図は分からなかった。


「……そう。じゃあ六年後にまた訊くわ」


 想定内だとも想定外だとも言わず、勿論顔にも出さず、よしりんさんは契約の更新でもするかのような口調で返事をした。

 その後コートに戻れば、ゲストだったはずの桐椰くん達は大学生のお兄さん達と仲良くなっていた。松隆くんも桐椰くんも弟だし、月影くんは一人っ子だし、大学生にもなれば後輩だとか年下だとかを可愛がってしまう人達もいるらしく、仲間のバレーの応援そっちのけで楽しそうにしていた。


「金髪の高校生とか見たことねーわ、って思ってたから最初はマジビビった」

「よく見たら可愛い顔してんのにな」

「気にしてるんでやめてください」

「もっと言ってやってください」

「うるせぇな。吉野帰ってきたんだから準備でもしてろ」


 でも松隆くんと桐椰くんは相変わらずだった。よしりんさんに反応した大学生のお兄さん達が私にも手を振ってくれる。


「あー、そうそう、何ちゃんだっけ?」


 何ちゃん? ……あ、名前か……。「桜坂です」と答えると「違う、下の!」と聞き返され「亜季です」と付け加える羽目になる。グループの中にいる数人のお姉さん達がずいっと寄ってきた。水着姿の年上のお姉さん三人に囲まれるというのは同性でも中々迫力のある図だ。パーマを緩く当てた茶色の髪のお姉さんは中々物理的な距離も近く、肩を組まれる。

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