第二幕、御三家の嘲笑
「本当にそうならちゃんと気をつけなさい。慣れてるからといって油断は禁物ですから……」


 意識障害なし、血中酸素濃度異常なし、呼吸正常。その結果を聞いたとき、宍戸先生は目に見えて安心していた。やっぱりお金持ち高校となれば学校での事故を大騒ぎされてお家お抱えの弁護士に慰謝料請求されたりなんてことが起こるのだろうか。私の家はそんな心配ないですよ、と言いたかったけれど、もし宍戸先生が本当に一生徒を心配しているとしたら失礼なのでやめておいた。

 ロビーまで出た宍戸先生はちらと時計を確認する。まだ午後の授業は残っている時間だけれど、「一応、今日は安静にしたほうがいいですね」と帰宅を促す発言をされる。


「頻繁に足をつるわけでもないんでしょう? 疲れてるのかもしれないし」

「……まあ、心当たりはありませんが……」

「親御さん、この時間帯はお仕事かしら? さっき連絡したけど繋がらなくて……」

「そうですね、ちょっと繋がりにくい時間だと思います」

「じゃあ私が家まで送りましょう」

「宍戸先生」


 先生の申し出を断ろうとしたけれど、それより前に誰かの声が――いや、誰かなんて考えるまでもなかった――遮った。なぜこんなところで、と吃驚する前に、声の主は私達の前に立った。

 まさかの、御三家揃い踏みで。宍戸先生も唖然として松隆くん達を順々に見つめる。


「ま……、つたかくん……どうしたんですか?」

「父の勤務先なもので」


 答えたのは月影くんだ。そういえば月影くんのお父さんは医者だって言ってたっけ……。都美家総合病院なんて、月影という名前はないにしろ、お父さんはきっとここのお偉いさんに違いない。ただ、何の答えにもなってない。


「コイツ、足つって溺れたって訊いたんですけど、本当ですか?」


 私を顎で示すなんて失礼な訊き方をしたのは桐椰くんだ。宍戸先生は突然登場した御三家に狼狽えながら「そうらしいけど……」と曖昧な返事をする。


「本当に?」


 それを弾劾するような目で訊いたのは松隆くんだ。実際、宍戸先生は生徒相手だというのに身動ぎした。それを誤魔化すように、頬に手を添えて考え込んで見せる。


「もちろん、ずっと桜坂さんを見てたわけじゃないから……、溺れたときに何があったのかは分からないけれど、足をつったって話してくれたわよね?」

「はい」

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