第二幕、御三家の嘲笑



 六時前頃になってお祭に行く頃も、松隆くんはずっとどこか拗ねたような顔をしていた。日が沈み切っていないお陰で少しだけ明るい空の下、よしりんさんと私と月影くん、松隆くんと桐椰くんの組み合わせで並んで歩いた。月影くんが「放っておいていい」と言うのでもう間をとりなすことも宥めることもしないけれど、背後の空気は相変わらず重い。よしりんさんは興味なさそうに自分の腕を見て「あーあ、焼けちゃったわー」と悲しそうな声を出していた。


「よしりんさんの肌めちゃくちゃ綺麗ですよね」

「ありがと。本当はアナタのほうが綺麗じゃなきゃいけないのよ?」

「なんで何かにつけて私への攻撃に転化させるんですか?」

「何かにつけてつつく隙があるほうが悪いってことに気付いてくれないかしら」


 ああいえばこういう……。もしかして松隆くんの微妙な偏屈さはよしりんさんのせいなのか? と思ったけれど、桐椰くんは純粋無垢だし、月影くんはよしりんさんと無関係にアレなので関係なさそうだ。そもそもよしりんさんは私にだけ当たりが強く、「浴衣は仕方ないにしてももうちょっとお洒落しなさいよ。何なのTシャツと短パンってアンタどこのゲームに出て来る小僧なの?」「髪型にしたって結びさえすればいいとか思ってんでしょ? んなわけないんだから」「普通男が傍にいたら身だしなみに気を遣うセンサーが発達するはずなのにアナタにはないの? 壊れてるの? 腐敗したの?」と罵詈雑言の極みだ。月影くんはフォローを一言も入れることなく無視だ。背後の二人は無言だ。

 結局、お祭の場所に着くまでよしりんさんと私、時々月影くんしか喋らないという大変仲の悪そうな五人組になってしまった。お祭の場に着きさえすれば、暗闇の中でも煌々と輝く提灯(ちょうちん)やら電飾やらが嫌でも気分を明るくしようとしてくるし、笛やら太鼓やらの音も無理矢理場を盛り上げようとしてくる。実際大多数の人々は楽しんでいると思うのだけれど、いかんせん私達は松隆くんと桐椰くんが……。そもそも一番はしゃいでそうな桐椰くんが無言なので、その違和感もあって落ち着かない。

< 342 / 438 >

この作品をシェア

pagetop