第二幕、御三家の嘲笑



「ふーん。面白そうだからアタシも買ってきて。この辺りにはいるから」

「はいはい。んじゃ桜坂行くよ」

「うぇ?」


 なんで私が? 松隆くんよく見て、松隆くんの後ろにいる桐椰くんの顔が「何言ってんだコイツ」って言ってるから。今朝松隆くんがしてた顔してるから! あのマイペースな月影くんが空気読めって目で言ってるから!


「連れて行きたいなら連れて行きなさい。アタシは構わないわよ」

「何ですかその人質みたいな扱い! 私道具じゃないんですよ!」


 よしりんさんという頼みの綱がまさかの手を離すときた。愕然としているうちに松隆くんには襟首 (襟首!)を掴まれる。ちょっと待って!


「松隆くん! 伸びる! Tシャツ伸びちゃうし首締まる!」

「だったら大人しく付いて来れば」

「人攫いですか! 分かったから離して!」


 手に力は入っていないとはいえ、後ろ向きに引きずられていてはいつ転ぶか分からない。頼めばすぐに手は離れたけれど、代わりに手を掴まれて連れていかれる。松隆くんは振り向きもしない。拗ねてただけなのに、まるで怒ってるみたいだ。


「……そんなことされなくても逃げないよ」

「嫌がるだろ」

「……分かってるなら桐椰くんの前で言わなきゃいいのに」


 よしりんさん達から離れて列の最後尾に並ぶ。人が多いとはいえお祭の屋台だから、買うまでにそう時間はかからないだろう。松隆くんの顔を見るのは気まずくて、でもわざわざ手を引き剥がすこともできなくて、よしりんさん達が別の屋台を示す様子くらいしか視線のやり場はなかった。お祭りに来るまでの間、沈黙しながらも二人並んで歩いていた松隆くんと桐椰くんとの間の空気が再現されたみたいに空気が重い。松隆くんが何も言わないせいで暫く沈黙が落ちた。言い過ぎてしまったか、それとも桐椰くんを贔屓してるって思われたか――。


「遼の前で言われたくないの?」


 数分のタイムラグを経たというのに、CMを間に挟んだドラマよりも自然に場面を繋げてきた。

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