第二幕、御三家の嘲笑



「……当たり前じゃん」

「なんで?」


 私と違ってそう間もなく返事をしてるくせに、松隆くんの声は()(どころ)なさそうにぽつぽつと降ってきている気がした。そのせいで、分からないわけないくせに、と白い目を向けることは憚られた。


「……昨日の今日ですよ」

「昨日の何が理由?」

「何って……、」

「ねぇ、桜坂は俺と遼とどっちが好き」

「え」


 見るつもりなんてなかったのに、思わぬ言葉に弾けるように松隆くんを見てしまった。いつも通りの表情に見えるけれど……、その目に浮かぶ感情は一言で表せないほど複雑に思えた。そのせいで余計に動揺する。


「どっち……、って、そんな聞き方おかしいじゃん、」

「遼に見られたくないのは、遼に気を遣うべきだと思ってるからか、遼を好きだからか、どっちなの」

「……気を遣いたいだけだよ」


 桐椰くんに恋愛感情があるなんて言ったことないじゃん、そう小声で付け加えるけれど、松隆くんは安心――というと自惚れもいいところだけれど――も、納得もした様子がない。


「……松隆くんがそんなこと言うなんて珍しいじゃん。バレー負けたから?」

「そんなに連れて来られたの嫌だったの?」


 本気で反撃してくるなんて珍しいね、と言ったのは冷ややかというよりは疲れたような……、寂しいような声だった。でも松隆くんが現状に疲れている理由も寂しく感じる理由も分からないせいで、頭に浮かぶ複数の返事のうち、何が適切なのかよく分からない。


「嫌っていうか……、だから言ってるじゃん、桐椰くんの前でやることないじゃんって」

「遼の前でも遼の前じゃなくても、桜坂以外に誰かがいれば同じことはしたよ」


 私と二人で話したいことでもあるのだろうか。お好み焼きなんて似合わない松隆くんがわざわざはしまきを選んだのは、列が長ければ長いほど時間があると思ったからだろうか。松隆くんにしては単純で、まるで桐椰くんみたいに子供じみた策略だった。


「ねぇ桜坂、クラスマッチの日に話したこと覚えてる?」


 クラスマッチ……。クラスマッチの日には色々話したせいでどれのことを指すのか、その問いかけだけでは判然としない。でもこの文脈で生徒会が関係するわけないから、八百長 (という言い方が正しいのかは分からないけれど)の話ではない。……私が口を滑らせたことだろうか。桐椰くんに彼女が出来ても構わないのかという問いかけに対して、()だ(・)忘れられない、なんて馬鹿な返事をしたこと――。



「一つお願い聞いてくれるって言ったよね」

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