第二幕、御三家の嘲笑



 松隆くんを見上げる。少しだけ弱った顔をしていた。あと数組分のはしまきが焼き上がれば順番は回って来るだろう。もし私と二人で回るなら、松隆くんがよしりんさんの分のはしまきを買う必要はなくなる。ほんの十数秒以内で答えを出さなければいけない。


「……一緒に出掛けるとか、そういうのならまだ、違うけど。今日は、桐椰くんも一緒に来てるから。……さすがに悪いと思う」

「……そう」


 ふ、と松隆くんは物憂げな表情になった。そうだ、物憂げだ――松隆くんはずっと、何かを憂うような表情をしていた。


「じゃあ今度改めて誘うね」

「……今度」

「今度。それまでに遼に告白されてもその返事は変わらないと思っていいんだよね」


 が、次の瞬間、その顔にはいつもの不気味な笑顔が浮かんだ。何かを企んでいる腹黒い笑顔――そうか、桐椰くんに告白なんてされたら、いよいよ松隆くんと二人で行動するのは桐椰くんに対する罪悪感を掻き立てる。思わず愕然とした。


「こっ……この、クソリーダー!」

「何のことかな? 桜坂が今日は駄目だっていうから後日にしようかって言ってるんだけど?」


 だから婉曲的に退路を断つのはやめてよ! 手段を選ばぬ松隆くんの言葉に何も返せない。しかもはしまきを買う列に残るのは目の前のカップル一組ときた。もう考える時間は残されていない――タイミングを狙われた。


「酷いよ松隆くん! あんまりだ!」

「なんで? さっき桜坂は言ったじゃん?」


 カップルがはしまきを購入すべくお金を渡し、その手がはしまきを受け取る。松隆くんの笑顔は最高潮に達した。


「好きな女の子と二人でほんのちょっとの時間だけお祭り一緒に回ろうなんて、()や(・)か(・)な(・)お(・)()い(・)だよね?」


 ――駄目だ。このリーダーには、勝てない。


「……一緒に、回ります……」

「はしまき一つ」

「毎度」


 完全に否と答えることができなくなった私の前で松隆くんは悠々とはしまきを一つだけ買った。お神輿はもう通り過ぎている。きょろきょろと辺りを見回したけれど、当初の予想に反してよしりんさんの頭は見つからなかった。私の身長が低いせいもあるかもしれないけれど。くすっと松隆くんが笑う。

< 349 / 438 >

この作品をシェア

pagetop